「長期的投資」という用語は、様々な意味で用いられることがあるが、本稿では、よく用いられると思われる3つの意味での長期的投資について解説する。英語ではLONG-TERM INVESTMENTといい、「的」を含まず長期投資と訳されることも多い。
(1)金融商品の保有期間を長くするという意味での長期的投資
株式や投資信託などの金融商品を購入後、長期間保有し続けること。この投資方法の利点としては、投資リスクの時間分散効果が働き、単位期間あたりのリスクが縮小することがあげられる。各期のリターンが独立であるならば、ある1期間のリスク(収益率のボラティリティ)がσ(シグマ)の金融商品をT期間保有した場合、その1期間あたりのリスクはσ/√Tになる。期間が4倍になれば1期間あたりのリスクは2分の1になるということである。4期間の投資期間を予定した場合に、1期間経過後のリスクが2分の1になるのではなく、4期間経過後の1期間あたりのリスクが2分の1になるということである。しかし、4期間経過後に期待されるリターンの分散は、1期間のときよりもはるかに大きくなるのであるから、リスクが小さくなるという説明には、頷き難いところがある。
保有期間を長くすることによって、頻繁な売買を避けられるため、売買コストを低くとどめておくことができる点では利点となるかもしれない。しかし、一定の金融商品の保有を継続することによって、他の金融商品を保有できなくなるという機会損失が生じることもあり得る。
(2)金融商品を長期間にわたり定期的に定額買い付けるという意味での長期的投資
これは、ドルコスト平均法といわれる投資方法である。価格変動のある同一の金融商品に対して等株数投資と等金額投資(ドルコスト平均法)の平均買付単価を比べると、価格が下がっているときに多くの数量(株式であれば株数)を購入するドルコスト平均法の方が低く抑えられることは、この方法の利点といわれることがある。しかし、価格が継続的に上昇している場合の利益総額を比較するなどすれば、等株数投資の方の利益額が大きくなることもあるのは自明であり、平均買付単価の高低によって運用方法の優劣を決めることはできないように思える。また、平均買付単価の引き下げを重視すると投資価値が切り下がっているものに投資を続けることになるため、他の金融商品に投資をしていれば得られたかもしれない機会損失が生じることもあり得る。同じ金融商品に投資を購入し続けるので、保有金融商品を分散することによって得られるリスク低減を行えないデメリットも生じよう。
(3)金融商品への投資判断にあたり長期見通しを判断材料にするという意味での長期的投資
金融商品の価格に影響を与えると思われる要因について、長期的見通しを判断の重要な材料とする方法。たとえば新興企業の株式に投資をするにあたり、当該企業の長期的な業績見通しを拠り所にして投資の是非を判断するなど、である。このような投資判断が的中するかどうかは、まったく不明としか言いようがなく、投資手法としての優位性も明らかではない。
様々な長期的投資の手法があり、それらを促進しようとする動きも見られる。長期的投資に関する最近(2012年)の議論については、参考レポートを参照されたい。
(2012年9月6日掲載)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日