女性取締役を有する企業のリターンは好調

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  • 伊藤 正晴

サマリー

SRIはESG要因を投資プロセスに加えることで、運用パフォーマンスの向上や社会への貢献などを目指す投資とされている。実際に投資を行う際には、どのようなESG要因でも良いわけではなく、企業パフォーマンスと関係する要因を用いる必要がある。そこで、わかりやすいESG要因として女性取締役を取り上げ、分析を行った。具体的には、ブルームバーグから日本企業の取締役数と女性取締役比率のデータを取得し、女性取締役を有する企業の株式リターンの動向を分析した。

少子高齢化による労働力人口の減少が懸念されるなか、企業における女性の活用が求められている。女性取締役の登用は、企業が女性の力を生かしているかを端的に示す指標のひとつと考えられ、株式リターンと何らかの関係を持っている可能性があろう。

図表1が日本企業の女性取締役比率の度数分布である。直近の2011年はまだデータが入っていない企業が散見されるため、2010年のデータを用いて度数分布を作成した。分析の対象は860社だが、そのうち女性取締役を有する56社を対象に分布を描いている。図からわかるように、日本企業の女性取締役比率は10%未満の企業が23社、15%未満の企業が26社となっており、これら企業で全体の8割強を占めている。日本企業の女性取締役の比率は、非常に低い水準に集中しているのである。そして、比率が15%を超える企業も全体の1割強ではあるが存在し、最大では比率が33.3%と高い水準の企業もある。このように、女性取締役の状況を比率でみると、企業によって異なることが観察されるが、実数でみると様相は大きく異なる。今回の分析に用いているデータでは、各企業の取締役の数は4人から15人と幅広く分布しているのに対して、女性取締役の数は1人である企業がほとんど(56社中54社)であり、取締役の数の違いから女性取締役比率の違いが生じているのである。日本企業においては、女性が活用されているとはいえまい。このような状況から、本稿では女性取締役の有無のみに注目して分析する。

図表1 日本企業における女性取締役比率の分布
図表1 日本企業における女性取締役比率の分布
(出所)ブルームバーグより大和総研作成


図表2が、女性取締役を有する企業で株式ポートフォリオを構成し、そのリターンの推移を示したものである。具体的には、2010年のデータで女性取締役が存在する企業を対象として、各年の12月末時点で等金額ポートフォリオを作成し、翌年の12月末までの1年間そのポートフォリオを保有し続けることを2011年12月までの7年間繰り返した(このポートフォリオを女性取締役ポートフォリオと呼ぶことにする)。そして、その累積リターンの推移を、2004年12月末を100とする指数で図示している。

リターン指数の動向をみると、女性取締役ポートフォリオは配当込みTOPIXで示す株式市場全体とよく似た動きを示しているが、2008年の終りからは市場全体よりも上の水準を推移している。より詳細にみると、2008年半ばまで女性取締役ポートフォリオは市場全体と上下が入れ替わりながらも、ほぼ同じ水準を推移していた。そして、2008年のリーマン・ショックを契機とする金融危機の影響で株式市場が大きく下落したとき、女性取締役ポートフォリオも下落はしたものの市場全体よりも下落が小さかったことでリターン指数の水準に差が開いた。その後は、市場全体よりも女性取締役ポートフォリオの方が上に位置したまま推移し、直近では市場全体は下落しているが女性取締役ポートフォリオは横ばいから上昇となったことで、リターン指数の水準の差が拡大している。

7年間の累積リターンは、配当込みTOPIXが-28.8%であったのに対し、女性取締役ポートフォリオは+5.4%で、市場全体を大きく上回った。特に、金融危機以降の動向の違いがリターン格差につながったようである。ESG要因として女性取締役を有するという情報が株式投資に有効であることを示唆しよう。

図表2 リターン指数の動向(2004年12月末=100)
図表2 リターン指数の動向(2004年12月末=100)
(出所)ブルームバーグ、東京証券取引所等より大和総研作成


次に、図表3が2005年から2011年の各1年間の配当込みTOPIXと女性役員ポーフォリオのリターンをまとめたものである。2005年と2006年は女性取締役ポートフォリオのリターンは、配当込みTOPIXよりも1.5%程度低いリターンとなったが、2007年以降はすべて女性取締役ポートフォリオのリターンが配当込みTPOIXを上回った。特に、金融危機の影響で市場全体が大幅下落した2008年は、配当込みTOPIXが-40.6%の大幅なマイナスリターンであったのに対し、女性取締役ポートフォリオのリターンは-30.2%にとどまり、配当込みTOPIXを10%程度上回っている。また、2007年も配当込みTOPIXは-11.1%のマイナスリターンとなったが、女性取締役ポートフォリオのリターンは-8.6%で市場全体よりも下落が抑えられた。女性取締役ポートフォリオは市場の大幅下落時には、市場全体よりも下落が抑えられたことで、市場を上回るリターンが得られている。そして、2011年は配当込みTOPIXが-17.0%のマイナスリターンになったのに対し、女性取締役ポートフォリオのリターンは+1.1%のプラスリターンを獲得しており、配当込みTOPIXに対する超過リターンの増加に寄与している。また、図からわかるように、女性取締役ポートフォリオのリターンの方が、各年のリターンのブレが小さく、市場全体よりも安定的にリターンが得られている。

図表3 各1年間のリターン動向
図表3 各1年間のリターン動向
(出所)ブルームバーグ、東京証券取引所等より大和総研作成


以上の結果は、女性の活用を示す指標のひとつである女性取締役という情報がESG投資のファクターとして有効であり、投資パフォーマンスの向上に寄与することを示唆しよう。ただし、この情報が企業のリターンに影響するという直接的な因果関係を示すことは困難である。今回の分析は、データが取得できた860社のなかで女性取締役を有する56社のみを対象としているため業種や企業特性などに偏りが生じ、これがリターンと関係していることも考えられる。しかし、本稿で分析した女性取締役を有する企業の平均リターンは市場全体のリターンを上回っており、これは少なくとも女性取締役を有することがリターンに影響する何らかのファクターの代理変数になっていることを意味しよう。これは、女性取締役を有するという情報がESG要因として有益であることを示唆していると考えられる。

今回の分析で示したように、日本企業の女性取締役の数は非常に少なく、女性の活用とは程遠い状況にある。今後一層、女性の活用を進め、これが企業パフォーマンスの向上につながることを期待したい。

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