省エネ法、「ピーク対策」との両立に向けて

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2012年03月02日

  • 真鍋 裕子

サマリー

2月29日、経済産業省の省エネルギー部会より、省エネ法(※1)改正に関する議論の中間とりまとめが発表された。政府は、本とりまとめをもとに今国会での省エネ法改正を目指している。


改正の主な目的は、電力不足問題を受け、需要家側の「ピーク対策」を促すことにある。具体的には、蓄電池や自家発電設備、ガス空調、BEMS(※2)の導入などが想定される。現行の省エネ法では、エネルギー消費原単位を削減することが義務付けられているが、「ピーク対策」の観点は含まれていない。そのため、昨夏の電力需給対策として、自家発電設備の稼働や設備の運用変更を行った事業者の中には、エネルギー消費原単位が悪化してしまうケースが相次ぎ、省エネ法との矛盾が指摘された。経済産業省では、こうしたケースは省エネ法による指導等(※3)の対象にしないことで一時的に対応したが(※4)、今後、ピーク対策が省エネ法上も評価されるよう法改正に踏み切る。具体的には、ピーク時間帯(夏季・冬季の平日昼間など)の電力削減量に一定の“係数”(プレミアム)を乗じて評価することが考えられている。


「結果的にエネルギー消費量が増加してしまうのではないか?」と懸念されるかもしれない。例えば、ピーク対策として蓄電池を導入した場合、蓄電池の充放電効率が85%であれば、ピーク時間の電力100kWhを得るために、夜間(ピーク時間外)の電力を118kWh投入しなければならない。現行の省エネ法では、エネルギー消費量が増加したと判断される。

しかし、供給サイドから見た場合、ピーク時間の電力は、揚水発電や効率の悪い火力発電で賄われているケースが多い。揚水発電の効率は、一般的に70%程度(ピーク時間の電力100kWhを得るために、夜間の電力を142kWh投入しなければならない)と言われていることから、前述の充放電効率85%の蓄電池を導入して揚水発電の負荷が削減できれば、日本全体のエネルギー削減に貢献していることになる。逆に言えば、現行の省エネ法ではこうしたピーク対策が正当に評価されてこなかったということだ。


ここで、“係数”をどのように設定するかが重要なポイントとなろう。「ピーク対策」は、供給側の設備投資コスト削減に繋がり、我々需要家の電力コスト軽減が期待できる。蓄電池には、将来の再生可能エネルギー普及に貢献する効果も考えられる。しかし、“係数”を高く設定しすぎた場合、効率の悪い蓄電池や自家発電設備が導入され、日本全体としてエネルギー使用量の増加に繋がる可能性もある。目先の電力不足解消のために、省エネ法の本来の目的である“エネルギー使用の合理化”にならないことは避けるべきだろう。

そのためにも“係数”の設定にあたっては、これまで需要家に開示されてこなかった供給側の情報(ピーク時の需給調整電源の情報、コストの情報など)を明らかにし、「省エネルギー」と「ピーク対策」を両立できるよう十分考慮してほしい。本とりまとめでは、今後ピーク対策を進めていくためには電気事業者から需要家への情報提供が重要だとしている。今回の法改正が、将来的にスマートメーターの普及を促し、料金メニューの多様化等も含め、需要家が電力の需給状況に応じてきめこまやかにピークコントロールできる環境整備へと繋がることに期待したい。

(※1)「エネルギーの使用の合理化に関する法律」、1979年制定
(※2)ビル・エネルギー管理システム(Building and Energy Management System)
(※3)省エネ法のもとでは、エネルギー消費原単位の改善が見られない場合、まず指導・助言が行われる。
(※4)経済産業省「東日本大震災の影響を踏まえた省エネ法(工場等関係)の対応について」(平成23年5月30日)

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