日本の原子力発電所、11月の設備利用率は20.1%に

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2011年12月16日

  • 物江 陽子

サマリー

電気事業連合会は12月13日、11月の発受電速報を公表し、原子力発電所の設備利用率(含む日本原電)が20.1%となったことを発表した(※1)。日本の原発の年間設備利用率は、1977年度に設備の損傷により最低の42%を記録した後、設備改善により向上を続け、1983年度から2002年度までは70%以上を保ってきた。2003年度以降、相次ぐトラブルや事故により設備利用率は再び低迷したが、それでも60%以上で推移してきた(図表)。設備利用率20.1%という数字は歴史的な低水準と言えよう。

原発は電気事業法により、13~24カ月ごとに定期検査を行うことが義務付けられているが(※2)、東京電力・福島第一原子力発電所事故(以下、福島原発事故)以降、定期点検に入った原発が運転を再開しない状態が続いている(※3)。日本には現在54基の原発が存在するが、3基(福島第一原発1~3号機)が福島原発事故により停止、2基(浜岡原発4・5号機)が政府の要請により停止、1基(美浜2号機)が設備のトラブルにより停止しているほか、40基が定期点検中のため、運転中のプラントは8基となっている(12月13日時点)(※4)。これら8基のうち、年内にさらに2基、来年1月に1基、2月に1基が定期点検に入ることが公表されているほか、他のプラントも前回の点検から13カ月後に定期点検に入るとすれば、来年5月には運転中のプラントは1基のみとなる見通しである(※5)

原発は昨年まで国の電力の約3割を供給してきたため(※6)、設備利用率の低下が電力供給に与える影響は大きい。低下の背景には、原発の安全性の確保を求める世論の高まりと、運転再開の判断基準となる安全性評価(ストレステスト)の遅れがある。政府は7月、原発の営業運転再開に向けて、原発の安全性向上と国民の安心・信頼確保のため、ストレステストを実施する方針を発表、同月原子力安全・保安院が評価手法と実施計画を発表したが、これまでにストレステストの結果を報告したのは4基にとどまっている(関西電力大飯原発3・4号機、四国電力伊方原発3号機、北海道電力泊原発1号機)(※7)

NHK放送文化研究所が10月に実施した「原発とエネルギーに関する意識調査」では、「定期検査や地震のために運転を停止している全国の原発が運転を再開することについて、賛成ですか。反対ですか。それともどちらともいえませんか」との設問に対して「どちらともいえない」との回答が49%で最多であった。回答者のおよそ半数が判断を留保しているが、残りの半数の回答者のうち、「反対」との回答は29%で、「賛成」の18%を上回った(※7)。同調査ではまた、国の原発に関する安全管理について「あまり信頼していない」「まったく信頼していない」との回答が合わせて全体の7割にのぼった。原発再稼働の是非について、判断を留保する回答者が多いのは、原発がなくても電力供給がまかなえるのか、その場合の家計や企業への影響はどうか、といった問題に判断を下しかねているからだと推察される。一方で、原発の安全管理については多くの回答者が不信感を持っているのが調査結果から読みとれる。国はそもそも原発の運転再開がどのくらい急を要する課題であるのか、議論を尽くす必要があるだろうし、運転再開が必要な場合、厳しく透明性が高い安全性評価を実施し、安全対策を抜本的に強化する必要があろう。原発の設備利用率はこのような抜本的な対策がとられない限り、さらに低下する可能性があろう。

図表:原子力発電所の年間設備利用率(1970年度~2010年度)図表:原子力発電所の年間設備利用率(1970年度~2010年度)
(出所)1970~2009年度については原子力安全基盤機構「原子力施設運転管理年報(平成21年度実績)」(2010)より。2010年度については電気事業連合会「2010年度の発受電速報」(2011年4月15日)より。

(※1)電気事業連合会「2011年11月の発受電速報」(2011年12月13日)
(※2)電気事業法施行規則第九十一条による。
(※3)11月にはトラブルにより停止していた玄海原発4号機が運転再開したが、定期点検後の原発が営業運転を再開した例は、調整運転中だった泊原発3号機が8月に営業運転を開始したケースを除いて、現時点ではない(12月13日時点)。
(※4)電気事業連合会「運転情報・実績データ」および電力各社ウェブサイトより。
(※5)電力各社ウェブサイトより(12月13日時点)。北海道電力泊原発3号機は前回の定期点検が2011年8月に終了しており、13カ月後に定期点検に入るとすれば2012年9月から次期定期点検に入ると推察される。
(※6)原子力は2009年度に事業用発電の燃料の30%を占めた。資源エネルギー庁「平成21年度(2009年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」(2011年4月26日)
(※7)2011年12月13日時点。原子力・安全保安院「ストレステストの進捗状況」
(※8)残りの4%は「わからない、無回答」。NHK放送文化研究所「原発とエネルギーに関する意識調査(2011年10月)単純集計表」電話法(RDD追跡法)、調査回答数1,775人、回答率67.7%。

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