2011年07月01日
サマリー
6月29日付けESGニュース「今夏の電力需給対策~中長期的な省エネルギーを促すとき~」で述べたとおり、東京・東北電力管内における夏期の電力需要抑制目標は一律15%削減と決定された。今夏の節電に留まらず中長期的な対策が必要であることは前号で述べたとおりだが、政府の発表資料においても、「今夏以降の需給対策」について述べられている(図表)。
特に、「自家発電設備の活用」(※1)は、4月に発表された骨子(案)以降に新たに追加された対策だ。従来、事業者による自家発電設備(以下、自家発)の設置は、売上減少に繋がるため電力会社から歓迎されてこなかった。したがって、自家発が故障等により緊急停止した場合は、割高な価格での電力購入を余儀なくされる等、自家発設置者は燃料費変動以外にも多くのリスクを抱えていた。また、余剰電力を売電することは想定されてこなかったため、工場の生産変動に耐えられる規模での導入に留まったり、コージェネレーションシステムの熱需要側に合わせた運用等は行うことができなかった。促進策の詳細は不明だが、こうした自家発設置者の制約が改善され、事業者の選択肢が広がるのであれば歓迎すべきだろう。売電の条件によっては積極的な自家発普及に繋がり、需給逼迫を和らげられる。
ただ、温暖化対策という面では自家発導入が有効かどうか議論が分かれる。以前から"全電源平均"か"火力平均"かという議論があった。原子力、水力発電比率の高い日本は、"全電源平均"の排出係数(kWhあたりのCO2排出量)が低い。従って、買電から自家発に切り替えた場合、"全電源平均"の係数から評価すると事業者はCO2排出量を増加させたことになる。ところが、実際には、事業者が自家発を導入した場合、電力会社は火力発電の稼働率を下げて調整するため、電力会社の火力発電が置き換わっただけと考えることもできる。その場合、"火力平均"の排出係数から評価され、送電ロスや熱利用を考慮すると、事業者はCO2排出量を減少させた結果となる。後者は、主にガス会社や石油会社が主張してきた考え方だが、現在、省エネ法と温対法(※2)は前者の考え方で進められている。したがって、自家発の導入効果は、熱を有効に利用して総合効率を上げた場合でも、十分に評価されているとは言い難い。自家発普及にあたっては電力需給対策と温暖化対策双方のバランスを保つべく正確な議論と情報提供が求められよう(※3)。今回、一時的に自家発普及を促すインセンティブを与え、数年後にははしごをはずすようなことにならないことを望みたい。
(出所)経済産業省「夏期の電力需給対策について」別紙5「今夏以降の需給対策」平成23年5月13日より大和総研作成
(※1)「新規の調達先を含めた自家発電源の余剰電力について、東京電力及び東北電力による適切な買取を図る一方、支援予算措置を有効に活用しつつ、自家発設置者に対し、増出力及び売電を要請する。また、自家発電設備の活用に係る関連規制に関する環境を整備することにより、自家発の導入促進を図る。」(経済産業省「夏期の電力需給対策について」別紙5「今夏以降の需給対策」平成23年5月13日)
(※2)「エネルギーの使用の合理化に関する法律」と「地球温暖化対策の推進に関する法律」
(※3)第8回国内クレジット認証委員会(2009年11月開催)の資料によると、小規模発電設備導入により調整される限界電源(火力)の排出係数は0.55kg-CO2/kWhと算出されている(参考:全電源平均0.351kg-CO2/kWh、2009年度実績、電気事業連合会)。実際には、ある程度時間を経れば全体の供給調整が行われ、全電源が当該需要変化に対応することが報告されている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の構想と日本企業への示唆
影響、依存、リスクと機会(IDROs)をいかに捉え、対処するか
2025年07月14日
-
ESGスコアの成長率と企業パフォーマンス
「社会」に関する取組みの中長期的な継続と向上の重要性
2025年06月26日
-
投資家の自然資本/生物多様性に関する評価軸
Nature Action 100、Springが示す枠組み
2025年06月20日
最新のレポート・コラム
-
「九州・沖縄」「北海道」など5地域で悪化~円高などの影響で消費の勢いが弱まる
2025年7月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年07月14日
-
2025年5月機械受注
民需(船電除く)は小幅に減少したが、コンセンサスに近い結果
2025年07月14日
-
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の構想と日本企業への示唆
影響、依存、リスクと機会(IDROs)をいかに捉え、対処するか
2025年07月14日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
-
中央値で見ても、やはり若者が貧しくなってはいない
~20代男女の実質可処分所得の推移・中央値版
2025年07月14日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日