2017年10月04日
企業は地域のイベントや文化事業の開催、災害時の義援金拠出など、さまざまな社会貢献活動を行っている。東洋経済新報社「CSR企業白書2017」によると、2015年度の社会貢献支出額ランキング1位はトヨタ自動車の254億円、2位はJTの90億円、3位はNTTの66億円となっている。本稿では、これらの企業の社会貢献活動が国や地域に与える経済波及効果を計測する意義について考えてみたい。
経済波及効果という言葉を聞いたことのある人は多いと思う。多くは道路・空港・港湾・鉄道等の大規模公共事業やイベント等が国全体や地域に及ぼす経済価値を計測したものであり、その多くは産業連関表を用いて行われている。ここでの計測はほとんどが国や地方自治体、公益法人など、公的主体が行うことが多い。これは、各主体に関連する施策が、経済へどのような影響を及ぼすかを計測・予測し、どのような施策を展開すると地域経済がどのように活性化されるかということを明らかにすることで、政策形成のツールとして利用したり、住民に対する説明責任(アカウンタビリティ)に利用したりするためである。
通常、公共事業等の経済波及効果を計測する際は、例えば空港整備であれば、空港が建設されるには鉄筋やコンクリート、アスファルト等が必要となり、さらにそれを生産するための材料が必要になるという具合に関連産業に次々に波及していく効果を計測する。これを企業の社会貢献活動に当てはめると、例えば、イベント開催の場合は、まず会場設営や備品の準備のための支出などが発生する。またイベント参加者が現地で落とす飲食費や宿泊費などの消費支出も発生する。さらにそれらに関連する業種の生産が増加するというように次々に効果が波及する。このような企業の社会貢献活動の経済波及効果は運営にあたっての支出や参加者の支出額等の詳細なデータがあれば、通常の産業連関表で計測可能である。

企業が自社の社会貢献活動の経済波及効果を計測する意義としては、まずCSR(企業の社会的責任)の説明力向上が挙げられる。企業がその利益の一定金額を社会貢献活動に使うことは、一定規模以上の企業には欠かせない活動なのかもしれない。しかし、ただ「お金を拠出する」だけでいいわけではない。どれだけお金を出したかというインプットだけでなく、その結果、上昇した数値や国・地域に与えたインパクトを定量的に把握し、検証することが重要である。社会貢献活動の経済波及効果の計測はその一助となりうる。
また経済波及効果分析は、経済波及効果(生産誘発額)に加え、付加価値誘発額、雇用誘発者数、税収増加額など幅広い分析が可能である。これらの数値を企業内外で共有できれば、社員であれば自社の存在価値や社会に対する貢献度の大きさを知ることができ、価値の共有による意識の向上、また品質や生産性の向上などが期待できる。さらに、社会における企業イメージの構築にも使うことができ、コーポレートアイデンティティを醸成する観点からも大きな効果が期待できる。
現状では、社会貢献活動のアウトプットの把握やインパクトの検証はまだまだ不十分であるように思われる。日本企業の社会貢献活動を進化させるには、本稿で述べた自社の社会貢献活動の経済波及効果の計測を行うことも一つの方法であろう。
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