2013年10月09日
近年、ビジョンを新たに作成する、もしくは、見直す企業が多くみられる。ビジョンは企業にとっての将来のありたい姿を具体化したものである。経営の基軸として、事業領域、顧客への提供価値、将来のポジションなどの内容を含む。従来のビジョンは、理念や戦略(経営計画)等とワンセットで、外部の顧客や投資家に対する宣伝を兼ねて形式的に策定されているケースが多く、経営の基軸として機能しているとは言い難かった。
成熟社会の到来により市場は飽和し、従来の製品やサービス単位の考え方では、売上の限界に直面する企業が増えている。一方で、顧客の囲い込みや深堀、新たな顧客の取り込みを目指し、小売業から製造分野への進出や製造業のサービス事業へのシフトなどの動きも見られる。市場の飽和を起因として、従来の事業区分では捉えきれない動きが活発化し、多くの企業が事業再編や組織の再構築に迫られている。
また、市場の飽和によりビジネス環境の変化も激しくなっている。従来は緻密な外部環境の調査に基づき、精密に設計された企業戦略を策定するのが一般的であったが、こうした手法も役に立たなくなりつつある。戦略が策定され実行に移る頃には、前提としたビジネス環境が変化しているからだ。むしろ戦略は粗削りに策定し、実行しつつ環境変化に合わせて柔軟に見直すことが求められる時代になっている。
こうした市場の飽和の時代こそ、経営の基軸としてのビジョンの策定が求められる。ビジョンの策定により、以下の効果が期待できる。
- 事業再編や組織の見直しの際の判断基準が明確になる
- 事業や機能により固有の文化を持つ組織を有機的に統合し、イメージの共有化により、従業員の意識と行動のベクトルを揃える
- 基軸なき戦略の見直しによる事業の漂流を防ぎ、戦略の柔軟性を確保しつつ、能動的な事業展開を可能にする
ビジョンに求められるのは、まさしく経営のアンカーの役割である。
経営の基軸としての役割を考えると、ある程度の期間はビジネス環境の変化に耐え得るものでなければならない。そのためには、ビジョンが顧客フォーカスの視点を踏まえた将来のありたい姿になっている必要がある。顧客フォーカスとは、①誰が顧客なのか、②顧客のどのような価値向上に寄与するのか、を明確にすることである。この視点を重視したビジョンがあれば、実現に向けて、活用可能なリソースの組み合わせを環境変化に応じて最適化する、すなわち戦略を柔軟にアップデートしていけば良い。
市場の飽和とビジネス環境の変化に問題意識を感じている企業においては、経営の基軸として顧客フォーカスを踏まえたビジョンの策定を検討するタイミングではないだろうか。
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