2009年05月13日
製造業A社に対する営業改革コンサルティングでのこと。A社営業のこれまでの行動基準は、「お客様がこう言っているから・・・」。顧客が全て、という考え方は一面で真理だが、行き過ぎると顧客の要求に逐一対応する高コスト体質となり、本社の統制も利かなくなる。A社はこれを問題視し、行動基準を「自分たちは何を提供できるのか?」に変えようとした。すなわち、営業活動の基準を“自分たちが顧客に提供できる価値(=顧客価値)”主導とすることで、本社がコントロールできる秩序ある営業体制の確立を目指した。
社内の議論を通じて、自分たちが提供する「手厚いサポート」が他社にない強みであることが明らかになった。しかしここで改革はその歩みを止めた。A社はその“顧客価値”として、「手厚いサポート」を幅広い顧客に提供していくべきという結論に達してしまったのである。
何が問題なのだろうか?「自分たち」だけでなく、変わるものが他にもある。A社の営業はそれを見落としていた。それは顧客自身である。導入期から始まるライフサイクルという概念はご存知だろう。例えば、立上げ間もないベンチャー企業にとっては、様々な面での手厚いサポートが“顧客価値”となることは容易に想像できるが、顧客が成長期、成熟期へと進化すれば、専門能力やスピード、コストダウンなど、“顧客価値”もそれに応じて進化していくはずである。現在顧客が求めるものではなく、常に進化する顧客との関係を動態的に捉えることこそ、営業が担うべき最重要の役割なのではないか?
ちなみに、その後A社の営業担当は「手厚いサポートだけでは顧客の進化に対応できない。逆に手厚いサポートに強みがあるのなら、そういう(導入期~成長期にある)顧客をターゲットにするという考え方もあるのではないか」という議論を進めている。A社の営業は「顧客は進化する」ことに気付いたようだ。さて、貴社の営業はどうだろうか?
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