2009年02月18日
世界規模の消費減退の影響は、日本経済にも広く及んでいる。企業業績見通しには「赤字」「減益」という言葉ばかりが目に付く。
気になるのは、ここ数年の景気拡大期に議論されてきた、競争力向上のための施策など吹き飛んでしまったように感じられることだ。主な施策には例えば「人材育成」や「IT活用」があり、それぞれの在り方の議論と実践に時間が割かれてきた。
だが、現実には多くの企業で人員削減が行われている。ミクロ経済学において「長期」とはすべての投入要素(資本と労働)が可変である期間を指すのに対し、「短期」とは労働投入のみが可変である期間を指す。やはり企業が短期に調節できるのは労働投入しかないのかと割り切ってみても、ならば人材育成の議論は何だったのかという呟きが聞こえてきそうである。
では「IT活用」はどうか。情報や情報システムは資本の一部であり、短期に投入量を変えられないとすれば、これを活かす以外に道はない。改めて、情報が企業活動に及ぼす主な影響を整理してみると次のようになる。
1)情報の流通がスムーズになることによって、ビジネスプロセスが効率的になる
2)情報の収集・分析を通じて、新たな顧客ニーズを発掘できる
3)情報漏洩や情報の隠蔽行為がもたらす脅威に事前に対処する
所与の経営環境の下、企業にはこれらに経営資源をバランスよく充当する情報戦略が求められる。ただ、情報と情報システムが本来的に持つ性質から、1)と3)への意識が相対的に高かったのではないか。
改めて今日の情報戦略を考えてみると、2)のウェイトを高めるべきであろう。1)はコスト削減にはつながるものの、人員削減を実施せざるを得ないような昨今の状況を打破する特効薬にはならない。また、3)は収益向上に寄与する性格のものではない。いま求められているのは需要を創出するための情報のハンドリングであり、それを実行できる人材である。情報を通じて需要を喚起・創出できる力こそIT活用における競争力そのものであり、持続的成長の原動力になりうる。現在の経営環境が、この競争力を持ちえる契機となることを期待したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
ROEの持続的向上のための資本規律の重要性
資本コストを真に意識した財務戦略への道
2025年05月02日
-
シリーズ 民間企業の農業参入を考える
第2回 異業種参入:持続的成長をもたらす戦略とは
2025年03月11日
-
中期経営計画の構成形式に関する一考察
企業の状況や経営の考え方を反映した最適な選択を
2025年02月12日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日