日本の組織の情報活用能力について考える(その1)

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これまで日本経済を支えてきた自動車産業も厳しい局面を迎えている。一方で、日本経済を牽引する次世代を担う産業が育っていない。工業化時代の成功が情報化時代への対応を遅らせたとも言えるし、環境変化に対して、社会や組織がプロアクティブに対応することを苦手とする日本の歴史的・民族的特性によるものと言えるかもしれない。
今回は、日本の企業における情報化投資に対する経営成果や、情報化時代に対応して組織がいかに変化していくかについて考えてみたい。


総務省の日米企業のIT活用調査(2003年)によれば、売上高に対する情報化投資の比率も、米国企業の平均が4.3%であるのに対し、日本企業の平均は1.3%である。情報システムの導入効果に関しても、日本企業の情報システムは業務の効率化レベルにとどまっており、米国に比べて、顧客との関係の強化、企業間の連携など、経営を戦略的に支援する情報システムへの取り組みに遅れが見られた。総合的な情報化投資効果についても、日本企業で「効果が十分にあった」と回答した割合は3.5%に留まり、米国企業の22.3%に比べて低い。
そして、ガートナーが2007年に実施したIT投資マインドの調査では、日本は16か国中最低であった。(トップはインド)


米国では1980年代後半から、ITは投資額に見合う経済効果が得られているか、との議論がなされた。しかし、1990年代後半頃から、米経済の復活がIT関連技術の革新によるものとし、この問題は解消したとされる。
ITを活用すれば、顧客への迅速で適切な対応、新製品の開発の効率化などが可能となり、経営はスピード化し、効率、生産性、品質も向上するはずである。しかし、日本においては、まだ、多くの経営者が情報化投資に見合う効果を実感できずにいる。そのため、ITへの投資が伸びない。


さて、近年の研究でIT投資が効果を生むためには、情報活用の組織能力やインタンジブル・アセット(無形資産)が重要であることが明らかになっている。このインタンジブル・アセットとは、業務プロセス、社員教育、取引先との関係、顧客満足度、社員の忠誠心、企業に対する評価などである。
ITを使って情報を集め、高速に処理し、共有することはできる。しかし、それらの情報から意味を読み取るのは人であり、さらに価値ある行動を生んで始めて情報は意味を持つ。企業の行動は組織によりなされる。
企業の競争は激化し、組織に入ってくる情報は増え続け、高速に処理し、迅速に行動しなければならない。そこで問題になるのが、人間の介在による情報処理の遅れである。
ITに投資し、高度な情報処理システムを作れば作るほど、それに見合う情報活用能力が個人や組織に求められる。最近の研究により、情報活用能力の低い組織において情報化投資を増やすと、かえって生産性が下がることが確認されている。


年明けの次号では、情報化時代の組織要件と日本における課題について考えてみたい。

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