参院選決着後の年金政策の行方~マニフェストの比較から~

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熾烈な戦いが繰り広げられた参院選が終わった。
今回の参院選はこの一年間の民主党に対する審判という意味合いの他、年金・医療・介護といった社会保障制度の改革と消費税増税を含めた財源の確保に関するマニフェスト対決という構図も成り立っていたが、与党の民主党にとっては厳しい結果となった。
報道等で大きくとりあげられることはあまりなかったが、各党の年金マニフェストでは年金制度の一元化を含めた公的年金制度改革の方向性、消えた年金記録問題への取り組みの方針等について触れられている。
選挙前の各政党の年金マニフェストをその特徴に基づき筆者が勝手に命名するならば、民主党は「フルモデルチェンジ宣言」、自民党は「マイナーチェンジ&モア・ベター宣言」、公明党は「低所得者の味方宣言」、みんなの党は「とことんやるぞ!宣言」、国民新党は「脱!格差社会宣言」と言ったところであった。


会社員、公務員、自営業者が同じ年金制度に加入する、いわゆる年金制度の一元化については、民主党をはじめ公明党、社民党、国民新党などでマニフェストに記載されたが、自民党のマニフェストには一切記載がなく、対照的なものであった。
年金制度の一元化は、平成16年の自民・公明・民主の三党合意に基づいて設置された「年金制度をはじめとする社会保障制度改革に関する両院合同会議」で協議が開始されて以来、これまで基礎年金部分と報酬比例部分の設計に関する考え方や財源の確保(税方式か社会保険料方式かも含めて)といった点で各党、各界から多くの提言が出されており、今後も活発な議論と一定の成果が期待される重要なテーマである。にもかかわらずいまひとつ盛り上がりに欠け、特に今回の自民党の年金マニフェストには物足りなさを感じた有権者も多かったのではないだろうか?
また、年金制度改革と表裏一体の関係にある財源の確保についても、明確に踏み込んでいる政党はそれほどなかったようである。
民主党は年金一元化により、月額7万円の最低保証年金を実現するため税制の抜本的改革を実現し、そのための財源を税金によって確保する方針であることを打ち出した。また、公明党も消費税の用途を年金・医療・介護といった社会保障給付と子育て支援に限定したうえで、消費税率を見直すことを明示している。


ここで今回の参院選の最大の争点となった消費税の増税に対するスタンスを政党別に確認しておきたい。年金・医療・介護といった社会保障に限定した消費税の増税に前向きなスタンスであったのは民主党、自民党、公明党、立ち上がれ日本、新党改革であり、一方反対のスタンスをとっていたのが日本共産党、社民党、みんなの党であった。
今回の選挙戦で消費税の増税に対するスタンスが争点となったことは非常に意義のあることであったが、結果だけを見れば民主党にとっては逆風となった。しかし、財政赤字の縮小・改善には消費税の増税に関する議論は避けて通れず、今後議論に必要な時間を考えれば時間的猶予はそれほどないはずである。消費税増税の議論をタブー視することなく超党派の議論を行ない、きちんと国民に説明をしたうえで、しかるべき時期に再度民意を問うて欲しい。


次に消えた年金記録問題への取り組み方針であるが、その問題の大きさゆえ問題解決に対するマニフェストへの記載については各党とも慎重にならざるを得なかったようである。
民主党は、納めた保険料と受け取る年金額が分かる「年金手帳」などの仕組みの導入を図り、2011年度まで集中的に取り組むことを明記するに留まった。また自民党は、年金記録問題への対処と迅速な救済により、年金への信頼を取り戻すことを明記したものの、目新しい施策に欠いた。そんな中で特徴的だったのが、みんなの党である。

  1. 年金記録問題を2年以内に解消する
  2. 歳入庁を設置し、徴収制度を抜本的に改革する
  3. 現行の給付水準を維持すると共に、将来的には年金制度を一元化する
  4. 年金記録を行なう電子通帳を導入し、納付履歴管理と将来の給付額を明示する
  5. 年金積立金管理運用独立行政法人を廃止し、民営化を図る

など具体的な施策を明示し、有権者から一定の支持を得たことで大躍進を果したかに映る。
一連の年金記録問題で不利益を被っている人々の救済は待ったなしである。公明党が明示した「最終的には公示等による解明・統合の検討」も現実味を帯びてこよう。政権与党には党の壁を越え、良いアイデアは積極的に政策に取り込む度量も見せて欲しい。


最後にその他の年金政策にも触れておきたい。
自民党および公明党は年金の受給資格要件を25年から10年に短縮するプランをマニフェストに明記した。
現行の国民年金法では、生年月日による特例はあるものの基本的には、「保険料納付済期間」+「保険料免除期間」+「合算対象期間(カラ期間)」を合わせて25年以上の条件を満たさなければ老齢給付の受給資格を得ることはできない仕組みとなっており、そのハードルの高さゆえ無年金者を生み出しているとの批判もあった。
今回のプランはこの期間を10年に短縮するものであるが、諸外国をみても10年が一般的であり、昨今の日本における雇用の流動化、個人のライフプランの多様化、その他様々な不確実性の高まりを考えると25年の資格要件は非常に酷であると言わざるを得ない。
受給資格要件の緩和は、深刻化する無年金者問題に対する有効策と考えられ、是非とも実現して欲しい政策の一つである。


参院選が終わった。
今後の日本の年金政策の行方をしっかりと見極めていきたい。

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