2009年03月04日
3月の決算期末に向け、企業のバランスシート(BS)劣化が懸念されている。外需急減による本業の業績悪化に加え、株価下落による政策保有株式の評価損や円高による在外子会社に関わる為替損が資本(純資産)のマイナス要因となるためだ。直接的ではないものの、株価下落による年金(退職給付)の運用損失もマイナス要因と言える。外需、為替、及び株価の3要因が全て資本を減らす方向に動いたことになる。いずれも個別企業の日々の経営努力を超えた要因だから、「運が悪かった」と言うこともできよう。
しかし、本当に「運が悪い」で片付けて良いのだろうか?図1に示す通り、要因をたどると欧米諸国における信用収縮に行き着く。重要なのは、欧米の信用収縮が複数の経路から日本企業のBSを劣化させている点だ。信用収縮の負の影響が増幅されるから、典型的なデレバレッジ効果と言える。この信用収縮には行き過ぎた信用拡張の反動という側面があるから、全く同じ図で方向性を逆にするだけで数年前の状況を表すことができる(図2)。信用の収縮・拡張いずれに関しても、日本企業に与える影響は重層的なものとなるから、極めてリスクの高い構造と言える。このような構造に対する理解が不十分な企業では、海外の好景気による外需増、円安、或いは株高の恩恵を自己の実力と混同し、競争力強化やレバレッジ効果の抑制に向けた十分な努力が行われなかった可能性がある。「良い結果は実力、悪い結果は運」ではリスク管理にはならない。
同時に、このようなレバレッジ効果を内包する構造が、外需依存体質や株式の保有構造といった、戦後から高度経済成長期にかけて形成され、その後は日本経済の問題点として指摘され続けてきた課題と密接な関係にある点も見逃せない。公共事業を中心とする内需拡大策や銀行の持合解消に向けた諸施策が実施されたものの、製造業を中心とする輸出関連産業に替わる内需関連産業の育成や銀行に替わる株式保有主体として期待された家計の貯蓄から投資への流れが着実に進展したとは言い難いのが実状だ。国レベルの対応が遅れる中、個別企業自身の努力にも限界がある。とすれば、やはり昨今のBS劣化は「運が悪かった」と言うことになるのだろうか。
図1 信用収縮によるBS劣化(今日の状況)

図2 信用拡張によるBS増強(数年前の状況)

出所:大和総研作成
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