2014年05月07日
アルフレッド・チャンドラーの「組織は戦略に従う」という言葉がある。組織を変えたからといって業績が好転したり、驚くような成長を果たすこともない。業績が悪化したからといって会社組織をいじるのは避けなければならないが、戦略に沿った上で、属する人間が成果を上げやすい組織とすることは必要である。
会社あるいはグループを管理する形態として、よくあげられるのが、①事業部制、②カンパニー制および、③持株会社制である。持株会社には事業持株会社と純粋持株会社があるが、一般的に「持株会社」という場合は後者を指すため、本稿では特に記述していない限り純粋持株会社を指すこととする。
(1)事業部制
事業部制は、事業の種類ごとに区分された一つ一つの事業部に、一定の機能と権限を持たせることで、迅速な意思決定を期待した組織体制をいう。
一般的に事業部制の場合は、各事業部に利益責任を負わせるため、損益計算書(売上高、営業利益)で管理されることが多い。
(2)カンパニー制
カンパニー制は、社内の事業部門を独立した企業とみなして独立採算的に運営させる方法である。事業部制よりも権限の委譲が進んでおり、管理会計上、資本の配分が行われていることが多い。
カンパニー制では、資本の配分まで行われていることから、損益計算書による管理(営業利益等)に加え、貸借対照表による管理(資本効率)やキャッシュフロー管理まで、仮想の会社として運営させることに特長がある。
一般論として事業部制とカンパニー制には、以上のような相違点があるものの、実際には事業部制を称しながら事業部にROA(総資産利益率)などの資本効率の指標を課すことや、カンパニー制としながらも売上高や営業利益(営業利益率)で目標管理しているケースなどもあり、明確な区分は難しい。
(3)持株会社制(純粋持株会社)
持株会社制は1997年の独占禁止法の改正により誕生したもので、本社(持株会社)の下、事業子会社が一定の機能と権限を持ち、経営責任を負う体制である。つまり、持株会社はグループ全体の経営戦略を担い、事業子会社はそれぞれの事業活動に専念する。
持株会社制では、各事業子会社が独立した企業体として効率的経営を目指すものであることから、カンパニー制同様、ROE(株主資本利益率)やROAで管理され、キャッシュフロー経営を推進しているケースがみられる。
持株会社制はカンパニー制をよりシャープな形で体系化したものであるといえる。社内組織である事業部制やカンパニー制よりも強いメリットを得られることもある。カンパニー制から持株会社制へ移行する企業が多いのもひとつの証左であると考えられる。
いずれの組織体制を採用するにせよ、経済環境の変化、競争の激化や規制緩和などといった外的要因、事業の特性やポジション、社歴・社風などといった内的要因を十分に検討し、中長期的な戦略を策定し、それに合った組織づくりを考えるべきであろう。アベノミクスで景気が上向き、余裕が出てきつつある今こそ、会社・グループにとってふさわしい組織の在り方、管理手法を考えてみる必要がある。
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