2013年01月16日
2012年11月14日の野田元首相の内閣解散発言から、日経平均株価は上昇を続けている。これは、3年ぶりに政権に復帰した自民党の安倍首相が掲げる、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という「3本の矢」への期待が高まっていることの証左であろう。多くの日本企業にとって、2013年が、デフレ脱却による強い経済再生に向けた勝負の年となることを期待したい。
ここで、2013年の年始ということで、企業にとっての中長期的な検討課題の一つである‘持株会社’という組織形態について考えてみたい。持株会社といえば、戦後GHQが財閥解体を意図し、独占禁止法によってカルテル等とともに禁止された組織形態である、というどちらかといえばネガティブなイメージを持たれている方も多いのではないか。持株会社は、「その機能が他の会社の事業活動の支配そのものであり、それ自体が経済力集中の手段となりやすいという性格を持っているものである(※1)」ことから、旧独禁法第9条は、競争の実質的制限や企業集中といった弊害の有無にかかわらず、一律に持株会社の設立を禁止していたのである。
その後、1997年に独禁法が改正され、持株会社が解禁された以降も、持株会社に移行する会社は緩やかな増加に留まっている。これは、持株会社の経済的効用と呼ばれるもののほとんどが、別段、持株会社の形態でなくとも達成可能なものばかりであるという考え方があり、このような考え方が持株会社化の動きを抑制している可能性があるからである。すなわち、この考え方によれば、持株会社のメリットとされる「戦略マネジメントと事業マネジメントの分離」、「責任と権限の明確化」、「意思決定の迅速化」、「グループ全体における資源の最適配分」、「新規事業の展開・リストラの推進」といった経済的効用は、事業部制やカンパニー制などを採用することで、程度の差こそあれ、十分に享受できるとされているのである。
しかし、持株会社には前述のメリットに加え、見落としてはならない重要なメリットがある。それは、「M&A等の機動的な再編を容易化する」というメリットである。前述のメリットは、主として企業グループを単独で見た場合に、いかに効果的かつ効率的に組織を運営していくか、という組織グループ内に生じるメリットである。これに対し、「M&A等の機動的な再編を容易化する」というメリットは、社外の経営資源を取込み、業界での地位を大きく向上させ得るという性格を有している。すなわち、持株会社を活用し、既存事業もしくは既存企業の合併・統合等が行われた場合には、従来の業界内における売上高、時価総額といった順位や市場シェア等を大きく変化させることになる。その結果、これまで所与として考えられてきた競争条件や業界の秩序を根底から覆すこともありうる。この意味において、持株会社化は企業を単独で見た場合の組織再編にとどまらず、業界全体をも巻き込んだ組織再編と競争力強化という、より大きな効果をもたらす企業戦略になりうるのである。
もちろん、企業が持株会社という組織形態を採ったからといって、すぐに業界の再編がなされるわけではないし、M&A等についても従来のカンパニー制などで十分に対応できるとする反論もあろう。しかし、これだけ変化のスピードが速い経営環境のなかで、今後も企業が勝ち残っていくためには、いついかなるときでも迅速に対応できるよう、事前に体制を整備しておくこと、すなわち持株会社体制を導入しておくことが肝要である。チャンスは一瞬しかないかもしれないと考えれば、これまでは「程度の差」で済んでいたことが、今後は「程度の差」ではすまなくなるかもしれない。自社にとって持株会社化という企業戦略が有効かどうか、いま一度立ち止まって考えてみてはいかがだろうか。
(※1)公正取引委員会「独占禁止法研究会報告書」より引用
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