2012年06月27日
グループの組織体制に関して、製紙業界において同じ時期に逆の動きをした会社がある。持株会社体制を解消する日本製紙グループ本社と持株会社体制に移行する王子製紙である。
日本製紙グループ本社は、持株会社体制を解消する理由として「事業会社間で重複する事業等が増加したこと、事業環境の変化に迅速に対応できないこと」をあげており、早期の事業構造の転換を進め、更なる企業価値の向上を図るとしている。一方、持株会社化する王子製紙では「経営効率の最大化、経営責任の明確化、意思決定の迅速化」により事業構造転換諸施策を推し進め持続的成長を図るとしている。いずれも最終的な目的が企業価値向上や持続的成長であり、今後の動きに注目していきたい。
持株会社体制が解禁されたのが2000年であり、その初期に持株会社体制に移行した会社では10年が経過したことになる。その間、経営統合型で持株会社体制を採用したグループでは持株会社体制を解消する動きもいくつかみられた(第一三共、雪印メグミルク、JVCケンウッドなど)。一方で、持株会社体制を維持しているグループの方がまだ圧倒的に多い(明治HD、コニカミノルタHD、住生活グループ、JFEHD、三越伊勢丹HD、エイチ・ツー・オーリテイリングなど多数)。
今後は持株会社体制を解消する動きが出ることは少なからず予想されるものの、これだけの会社が持株会社体制を維持しているのは、経営統合のための一時的なグループ体制というためではなく、恒久的なグループ組織として持株会社体制が定着してきた証左ではないか。
持株会社体制においては、次のようなメリットがあげられる。
- 戦略機能の強化:
グループ全体として最適な戦略立案・意思決定・資源配分が可能になる。 - 責任・権限の明確化:
事業子会社の役割が明確化し、事業責任が徹底される。 - 意思決定の迅速化:
事業子会社に権限が移譲されることで、意思決定のスピード化が図れる。 - M&Aの推進:
事業の買収や売却、再編などM&Aが容易になる。 - 組織人材の活用:
次世代のマネジメント候補の育成をし易くする。
しかしながら、これらのメリットは持株会社体制でなければ享受できないというわけではないが、持株会社体制の方が、より直接的に、よりシャープに体現できるものと思われる。
持株会社体制で重要なことは、持株会社が全体最適(グループ価値最大化)のために、グループ内のヒト、モノ、カネ、情報を管理し、グループ各社に対する資源配分を適切に行い、事業会社の経営成績に対しては公平な評価を下すことである。つまり、持株会社体制のメリットを活かし、各事業会社の企業価値を向上させるために、持株会社の機能・組織を整備し、グループ全体を運営していく仕組みづくりが必要である。
(大和総研のサービス)
大和総研では、これまで10年以上にわたって持株会社体制移行における数多くのアドバイスの経験を有しています。持株会社を検討している場合や、持株会社体制がうまく機能していないと感じた場合に、ご相談いただければお力になれると思います。
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