グループ再編のツールとしての現物配当(適格現物分配)

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  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 吉村 浩志

活用が広がってきた現物配当

平成22年度税制改正において適格現物分配(※1)が導入されて以降、現物配当の利用が増加している(図1を参照)。そもそも、現行の会社法においては、現物配当ができることが条文上明確化されており(会社法第454条第1項)、その意味では実施の条件は整っていた。しかしながら、現物配当を行う場合には、対象財産を時価で移転したものとみなされるため、譲渡損益について課税関係が生じることとなり、利用する意義が乏しかった。


平成22年度の税制改正において適格現物分配が導入されたことにより、完全支配関係等一定の条件を満たす場合には、現物分配により移転する資産を、税務上簿価にて移転することが可能となった。その場合は、現物分配を行う法人において譲渡益課税が生じないことから、現物配当(適格現物分配)はグループ内の組織再編を行う場合の有力な選択肢として浮上することとなった。

(図1)公表件数に見る現物配当

図1)公表件数に見る現物配当

※筆者調べ。TD netにて公表されている情報に基づく。なお、会社分割に伴い分割会社が株主に承継会社の株式を現物配当するケース(分割型分割)は除外している。また、公表後、中止されたことが確認できたケースについても件数から除外している。

どのような場面で現物配当が用いられているか

 では、実際、どのような場面で現物配当が利用されているのだろうか。先程の公表件数を、内容別に分類したものが「表1」である。大部分が孫会社株式という結果になっている。持株会社が事業子会社から孫会社株式を現物配当により受け取り、持株会社の直下に置くようなケースが一つの典型となっている。これは筆者の実感とも一致する。

 (表1)現物配当の対象となった資産

(表1)現物配当の対象となった資産

※筆者調べ。図1と同じデータによる。適格現物分配が適用可能となった2010年10月1日以降に実施した件数(公表日が2010年9月30日以前のものも含まれている)を右列に記載した。

グループ再編において現物配当を利用するメリットは、会社分割と比較するとはっきりする。会社分割において必要な労働承継手続が現物配当においては不要(そもそも労働承継が想定されていない)、現物配当の場合は資産の受入側において特別な手続(株主総会決議や債権者保護手続等)が不要等、有利な面が多い。


一方で、株式以外に移転したい資産がある場合や資産の出し手側の株主資本の水準を考慮すべき場合がある等、個別の事情によっては、会社分割を選択することが望ましいケースもある。実際、筆者が携わった案件でも、敢えて現物分配ではなく、会社分割をお奨めした事例もある。大事なのは、組織再編の全体像の中で考えることである。


組織再編にあたっての選択肢が広がったということは、どうやら検討するポイントが増えたことを意味しているようである。

(※1)法人税法に規定される「現物分配」と会社法・企業会計の文脈で言う「現物配当」とは完全に同じではないが、以下、税法との関係では「現物分配」、会社法・企業会計との関係では「現物配当」と記載する。

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