2010年09月01日
昨年から今年にかけて、日立グループにおいて、日立国際電気にはじまり、日立情報システムズや日立マクセルなど、上場子会社の完全子会社化を積極的に進めている。つい1カ月ほど前にも、日清製粉グループ本社、パナソニックがいずれも上場子会社2社のTOBと、その後の完全子会社化を公表している。
完全子会社化により少数株主を排除し、機動的なグループ経営を行うことができ、かつ、グループ経営の強化という点から、スピーディな選択と集中の実行が可能となる。
ではなぜこれまで子会社上場が行われてきたのか、親会社と上場する子会社に次のようなメリットがあったためと推察される(子会社にとっては株式上場の一般的なメリットと同様である。)。
親会社としては、(1)子会社株式を売却することで資金調達ができる、(2)上場会社を数多く傘下に持つことによるグループ・プレゼンスの向上などのメリットがある。子会社側のメリットには、(1)資金調達の多様化が可能となる、(2)知名度の向上による信用力の増大、(3)優秀な人材の確保などがある。
一方で、デメリットも顕在化してきている。たとえば、(1)少数株主との利益相反や(2)グループとしての一体性の低下などである。子会社においても、常にマーケットでの評価にさらされているため、おいそれと親会社の戦略に従えないという点もある。
特に親子会社で事業領域が近接していたり、シナジーが見込めるような場合は、事業を再構築することがグループ全体の効率化の点でも有益であるということも少なくはない。上場していて少数株主がいる場合は、少数株主の利益にも配慮しなければならないため、容易には事業再構築は行い難い。
今後は、コーポレート・ガバナンスの視点からも、子会社上場戦略に関して、決断を迫られる場面も出てこよう。上場子会社を有する企業グループでは、保有比率を引き下げて独立性を向上させることで上場を維持するのか、それとも非公開化することで再度グループ内に取り込むのか、子会社戦略を明確にするときが迫っている。マーケットにおいて、グループ価値向上のための上場子会社の完全子会社化がテーマとなっていくであろう。
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