2018年02月01日
インドネシア経済は今後も5%台の実質成長率が継続し、本年中に一人あたりGDPが4,000ドルを超える見通しである(IMF, World Economic Outlook, Oct 2017)。世界第4位2.6億人の人口を抱え、中間所得層の拡大が確実視される同国は、東南アジア最大の消費市場として国内外から注目されている。
ここでインドネシア消費者の支出変化を見ると、2016年の支出額は117万ルピア(約9,800円)となり、2010年の63万ルピア(約5,300円)に比べて1.9倍に拡大している(図表1参照、(※1))。項目別では「食料品」の支出額が52万ルピア(約4,400円)と全体の45%と半分近くを占め、2010年との比較で構成比に若干の低下が見られるものの、金額ベースでは最大の増加項目となった。この他賃料の高騰を一因とする「住居・家庭用設備」の支出額増加が目立つが、その他の項目は全体として構成比に大きな変化はない。

次に、2010~2016年の増加額が最大となった「食料品」の内訳を示すと、2016年の支出額52万ルピアのうち34%を占める「調理加工食品等」が、全体の増加に大きく寄与していることがわかる(図表2参照)。他方、穀物や青果物(野菜、果物)は、金額こそ伸びているものの、構成比は低下している。つまり、過去6年間におけるインドネシア消費者の変化の特徴の第一は、所得増加分の多くを調理加工食品等の購入に振り向け、穀物や青果物への支出を抑えた結果となった点にある。穀物や青果物への支出割合が低下した背景には、消費者の低価格志向が強く、特に穀物は他国の経験同様、需要の所得弾力性が相対的に低いことがあると考えられる。

筆者が昨秋にジャカルタのスーパーを訪れ青果品売場を見た際は、市内一等地の高級スーパーにおいても、目立つ場所に陳列されているのは相対的に安い農産品であり、高価格帯商品はほとんど取り扱われていないか、売場の奥や陳列棚の端側に配置されていた。日本産のリンゴも何店舗かで見かけたものの、陳列棚のサイズや配置では半値以下のインドネシア産、中国産が圧倒していたのが印象的だ。
地場スーパー担当者に理由を尋ねたところ、いずれも「一般的に、インドネシアの消費者は所得水準にかかわらず価格に非常に敏感。高付加価値商品の価格がそれなりに高くなるのは許容されつつあるものの、輸入青果品に関する付加価値が消費者に認識されておらず、どうしても価格がボトルネックになり易い。」との回答であった。例えば日本からインドネシアに青果品を輸出する場合、検疫対応のための検査費用や輸送費、関税、通関~店舗配送時の品質管理問題に伴うロス発生費用などのコストが発生するため、売価を高く設定せざるを得ない。そして検疫規制上、日本から輸入できる青果物は一部の品目に限られていることもあり、日本産の輸入青果物がインドネシア消費者に日常的に受け入れられることは現状難しいようだ(※2)。
ただ、今後は順調な所得の増加に伴って品質に対する関心が高まり、こうした事情に変化が現れるのではないだろうか。既にジャカルタの中・高所得者の一部では食の安全性に対する意識が急速に高まっており、例えばオーガニック食品は割高ながら大きな関心を集めているとのことである。実際、一部高級スーパーでは小規模ながらオーガニック食品売場が配置され、様々な茶や菓子が販売されるようになっている。一方、同じ店舗の青果品売場では産地がほとんど表示されていないなど、現時点で消費者の関心は「産地」に向いていないのが実情だ。しかし、今後の所得向上に伴って「輸入品は安全」、「価格は高いが美味しい」などの訴求ポイントが認められるようになれば、輸入青果物需要の拡大チャンスは十分にあると考える。食の安全を求めるインドネシア消費者に対する「日本の食」のビジネスチャンスはこれからが本番と言えはしまいか。
(※1)2016年の全国ベースでの1人あたり月額支出額は95万ルピア(うち食料品は46万ルピア)、地方部は71万ルピア(同40万ルピア)となった。
(※2)日本からインドネシアへの青果物の輸出に関しては、検疫上、りんご、桃、ぶどうなどの一部の品目に限定されている。なお、輸入可能品目は相手国によって異なる。
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