2017年08月17日
インドネシアは13,466の島々から構成される島嶼国家であり、地域ごとに彩られた多様な文化や自然を有する。「神々の島」として知名度が高いバリ島、スマトラ島とマレー半島を隔てるマラッカ海峡、大航海時代に貿易港として繁栄したスラウェシ島の都市マカッサル、自然豊かなカリマンタン島(ボルネオ島)など、歴史的名所や観光地、大自然にはこと欠かない。

反面、経済的な指標を見ると、ジャワ島へ一極集中する構図が浮かび上がる。ジャカルタを含む2つの特別州と4つの州が立地するジャワ島は、面積こそ全国土の7%にすぎないが、そこに全人口の57%が密集している。名目GDPの59%はジャワ島から生み出され、製造業に限ると全国シェアは70%を超えている。国内・海外からの直接投資も50~60%が同地域に集中している(2016年、出所はBKPM)。因みに、ジャカルタ特別州の1人当たり名目GDPの水準は約16,000米ドルに達しており、全国平均の約3,400米ドルを大きく上回っている(2015年、出所はBPS)。
2014年10月に就任したジョコ・ウィドド大統領はこうした一極集中、すなわち地域格差を解消することを、選挙公約以来の最重要課題の一つに掲げている。例えば、同大統領により2015年1月に公表された「国家開発計画(RPJMN)2015-2019(※1)」では、2019年までの経済数値目標が年次ベースで提示され、併せてインドネシアが取り組むべき「国家開発アジェンダ」として、「安全保障や政治的な透明性の確保」、「国民の生活レベル向上」などと並んで「地方部の開発」が優先課題に挙げられている。

この「地方部の開発」計画の中核となるのは、ジャワ島外の14ヵ所で開発される予定の工業団地群である(図表1、図表3)。それら工業団地は同国が有するパーム油やアルミニウム、天然ゴムなど天然資源の産業集積地として発展することが期待されている。加えて、計画では工業団地開発に留まらず、7ヵ所におよぶSEZ(経済特区)の新規開発やインドネシア全土にわたるコネクティビティ強化(※2)、地方部における人材育成も並行して進められる予定である。総じてジャワ島外の産業振興を目指す内容となっているのだが、これとは全く別の計画として、産業省が優先開発を進める5ヵ所(スマトラ2件、カリマンタン1件、ジャワ2件)の工業団地を指定するなどの動きもある。

現在、「国家開発計画2015-2019」は計画期間の折り返し地点を迎えたが、道路や空港、港湾など各種インフラは、目標の2019年に向かって着実に整備が進められているようだ(※3)。一部の工業団地では建設計画の遅れが報じられているものの、スラウェシ地方のモロワリ工業団地、コナウェ工業団地、バンタエン工業団地は2017年中に稼働見込みであり、中国企業などは既に具体的な進出を検討開始しているようだ。
一方、日本企業のインドネシアへの進出は、これまで製造業企業が大半を占め、かつ投資先はジャワ島に集中(2015年では95%超)しているのが現状だ(BKPM Japan Desk)。しかし今後、インドネシア政府による地方開発政策が軌道に乗れば、こうした傾向にも変化がみられるかもしれない。工業団地建設に伴って地方部での道路や空路、航路の整備が進み、地方間のロジスティックコストが低下すれば、進出先は地価の安い地方部にまで広がる可能性は十分あるだろう。もちろん、地方部に豊富なアルミニウムや天然ゴムなどの資源関係や食品などの産業が川上から川下まで発達するよう開発が進めば、インドネシアで生産を行う日本の製造業企業にとって、高品質原料の現地調達が可能になることも期待できる。
インドネシア国土の90%以上を占めるジャワ島以外の地方部、そのポテンシャルが思いのほか大きいと感じるのは筆者だけではないだろう。
(※1)インドネシアでは、国家開発システム法(法律2004年第32号)に基づき、2005-2025年長期国家開発計画(RPJP)と、5年ごとの中期国家開発計画(RPJM)、年次計画(RKP)が策定される。中期国家開発計画は、各大統領が就任直後に公表することから、大統領の政治的コミットメントとして位置づけられる。なお、2005-2009年、2010-2014年はユドヨノ前大統領が策定し、2015-2019年は長期国家開発計画の3期目となる。
(※2)2015年から2019年までの5年間で幹線道路の総延長距離は2,650km、高速道路は1,000kmを目標とする。また、鉄道は現状の5,434kmから8,692kmに延長される。港は278ヵ所から450ヵ所、空港は237ヵ所から252ヵ所に増設する計画。
(※3)ただし、中国が受注した高速鉄道については、2019年の開業は困難な状況と報じられている。
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