2015年06月18日
中国で5月28日、「STAND BY ME ドラえもん(中国語名:哆啦A梦 伴我同行)」が中国全土の一般映画館で上映される日本映画(※1)として約3年ぶりに公開され、封切り当初より非常に人気を得ているという記事が目に付いた。
ドラえもんは、中国では90年代よりテレビ・アニメとして放映され、80年代生まれ(80后)以降の人たちにとっては幼少期の懐かしい記憶として存在し、2000年以降に生まれたその子供世代には映画が身近な娯楽となったこともあり、これまで上映されてきた数本のドラえもん映画の体験もあることから、家族で楽しめる映画として幅広い層に受け入れられたことが人気の背景にあるようだ。ただし、筆者が驚いたのは中国での興行収入が公開後11日間(2015/5/28-6/7)だけで既に、2014年の日本での興行収入(83.8億円)(※2)を、上回る約90.7億円(※3)に達しているということであった。
確かに、中国では都市部で続々と新設されるショッピングモールやデパートなどには映画館が併設され買い物客の楽しみのひとつとして定着していることは目にしていたが、一方では一昔前の違法DVDの氾濫といった知的財産権に対する感覚の違いに起因するコンテンツビジネスの難しさを聞いていたため、中国の映画ビジネスが短期間にこれだけ興行収入を獲得できる市場となっていることの認識は薄かった。
そこで改めて、日本と中国の映画市場(興行収入)の推移を確認すると[下表参照]、2011年まで米国・カナダに次ぐ世界第2位の映画市場であった日本に代わり、2012年には中国が第2位の市場規模に成長した。その後も日本市場が横ばいで推移したのに対し、中国市場は急速に拡大が進み、その規模は日本、英国およびフランスの映画市場の倍以上の規模に達している。

つまり、日本映画が一般上映される機会が無かった3年間に、中国市場は世界的な映画マーケットに成長し、米国の映画協会や企業は積極的に中国の映画産業との関係を深め、ハリウッド映画の最大の輸出先として中国市場で一定の地位を築いてきたといえる。
とはいえ、日本と中国の映画産業間には長い交流の歴史がある。日本の映画界は、改革開放後の70年代後半から草創期の中国映画産業に対し、日本映画の積極的な紹介や配給に努め、現代中国の偉大な監督にも撮影技法などさまざまな影響を与えた(※4)。また、今回の一般上映に比べれば限定的ではあるものの、「日中映画祭」が文化交流や産業発展を目的に日本と中国で毎年開催されている(※5)。これらの活動を通じ、中国では日本の映画を含むコンテンツに対して一定の視聴者層が形成されていると考えられる。今後は日中共同制作や中国市場を意識したシナリオ作りなどを一層進めることで、日本映画の中国市場での市場獲得が進むことを期待したい。
(※1)日中共同制作映画は除く
(※2)一般社団法人 日本映画製作者連盟,「2014年度(平成26年)興収10億円以上番組」,2015
(※3)映画情報・市場リサーチ会社の芸恩網ウェブサイトによる同作品の中国本土での興行収入は4億5,342万元(2015/6/7確認)。人民元の為替レート20円/元で換算
(※4)劉 文兵,「中国10億人の日本映画熱愛史」集英社,2006
(※5)NPO法人 日中映画祭実行委員会 ウェブサイトより
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