2015年06月04日
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration)によると、世界218ヵ国の一次エネルギー消費量は、データが入手可能な1980年から2012年までの約30年間、概ね右肩上がりの増加で推移してきた(図表1)。しかし地域別に見ると、欧州や北米などの先進国ではほぼ横ばい傾向が続いている。先進国では一般的に、製造業からサービス業へのシフトや人口増加の減速(もしくは人口減)、省エネ志向の高まり等が要因となって、エネルギー消費量が頭打ちとなる傾向が見られる。
これに対して、近年特に目覚ましい成長を遂げているアジア・オセアニア地域では、1980年に比べて3倍以上、2000年比でも8割以上と、エネルギー消費量は大幅に増加している。発展段階を迎えている国では、工場等の集積が進み、運輸が発達し、国民の生活においても家電製品の普及が進むなど、数々の要因を伴ってエネルギー消費量が増加すると考えることができる。
同地域で2000年以降増加した+9.3京Btu(※1)のうち、中国(+6.6京Btu)、インド(+1.1京Btu)の2ヵ国の増加分が8割以上を占める。2012年には両国合計で世界の消費量の約25%を占めており(図表2)、それぞれ世界第1位、第4位のエネルギー消費大国へと成長した(図表2)。なお、同じアジア・オセアニア地域に属する日本は、1980~99年までの20年間は年率約2%のペースで増加していたが、2000年から2012年で約1割減少している。
一方、図表2の「1人あたり一次エネルギー消費量」をみると、中国、インドとも、依然として米国や日本等の先進国の水準を大きく下回っている。1人あたり消費量は、例えばその国の電力料金の水準や気候(特に冷暖房費の多寡)、電化率(※2)等に大きく左右されるため、多様な国を横並びで比較することは難しい。しかし、発展途上段階の国であれば、1人あたりGDPが増加すれば、一般的に1人あたりエネルギー消費量も増加する傾向にあるといえよう。IMF予想によると、①中国の1人あたりGDPは6,194ドル(2012年)から11,449ドル(2020年)へ、インドは1,496ドル(2012年)から2,672ドル(2020年)へと急成長が見込まれること、②人口も2020年にかけて中国が+4%、インドが+11%の規模へと増加する見通しであることから、両国ともエネルギー消費量は今後大きく拡大する余地があると考えられる。
中国、インドが世界の一次エネルギー消費量増加を大きく牽引する流れの中で、近年日本企業の進出先として注目されているASEANに焦点を当てると、2012年時点の構成比は10ヵ国を合計しても世界の4%に過ぎない。特にASEAN後発国とも呼ばれるCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)4ヵ国は、1人あたり一次エネルギー消費量が世界平均(7,494万Btu)を大幅に下回る水準である。すなわち、国民の多くが石炭や天然ガス等の近代的なエネルギーにアクセスできず、バイオマス燃料等に依存した生活を送っている状況にある。しかし、今後も上記4ヵ国の堅調な経済成長、1人あたりGDPの増加が続くと予想されることを前提とすると(図表3)、近い将来タイや中国並みの1人あたりエネルギー消費量へと拡大する可能性も考えられる。
CLMV諸国を電化率で捉えると、特にミャンマー、カンボジア、ラオスはそれぞれ32%、34%、78%に留まり、電力供給量の拡大、送電網の整備が急務となっている。電化率が低い現状では、国民の多数が照明や冷蔵庫などの家電製品を使用できず、電車などの公共輸送機関の運用も制限されるなど、生活水準の向上が難しい。企業活動においても、高水準の電気料金や頻繁かつ長時間にわたる停電の発生は多大な制約をもたらし、外資企業の進出を阻害する要因ともなっている。
CLMV各国とも電力事情の改善に取り組んでいるが、今後の経済発展や人口増加に伴う電力需要の伸びに対応することは容易ではない。ミャンマーでは依然停電が続くなど安定供給に向けた課題が多く、カンボジアでは大半を輸入に依存せざるを得ない状況にある。しかしラオスに関してはこれを機と捉え、同国を流れるメコン川の豊富な水量を活かした水力発電事業の強化を通じ、「東南アジアのバッテリー」としての地位確立を政府目標に掲げている。既に国際機関や中国・タイ等の外資主導で水力発電所や送電網の開発を積極化しており、現在稼働している25ヵ所の水力発電プロジェクトに加え、今後数年間で30ヵ所を超える大規模プロジェクトを完成させる計画で、供給能力は倍増する見通しである。
ラオスのダムで発電された電力の大半は中国やタイ、その他周辺諸国に送電されており、売電による外貨獲得につながっている。政府は海外向けの売電を全体の発電量の3/4の規模にまで引き上げる計画である。国内向けに関しても、2020年までに電化率を90%以上に引き上げる目標だ。
ラオスの大規模ダム開発計画は、ラオス国民の生活水準向上とメコン地域の電力事情改善を期待できるプロジェクトといえる。他方、ダム開発はしばしば環境面への負荷が大きく、過去の東南アジアの大規模ダム開発では地元住民と軋轢を生んだケースもある。環境保全と経済開発の折り合いをつけることができるかどうかがプロジェクトの成否の鍵を握ると考えられる。
(※1)Btu(British thermal unit、英熱量)とは、1ポンドの水を華氏1度上昇させるために必要な熱量。1Btu=約1,055J(約252cal)。
(※2)電化率とは、全世帯のうち電力を使うことができる世帯の比率を示す
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