2014年11月06日
日本政府は経済連携協定(EPA)に関し、今年7月8日にオーストラリア政府との間で署名、同7月22日にモンゴル政府との間で大筋合意をした。これら2件のEPAが発効すれば、日本にとっては15件目のEPAとなる。日本政府は、2013年6月に閣議決定した「日本再興戦略」において、現状19%とされる貿易に係るFTA比率(※1)を、2018年までに70%まで高めることとしており、今後さらにEPAの締結を拡大させる方向である。
この戦略方針の下に、日本政府はメガFTAと呼ばれる日中韓FTA、日EU経済連携協定、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、環太平洋経済連携協定(TPP)の4件のFTA・EPA締結に向けて、立て続けに交渉を開始している。
注目すべきは、RCEPを除いたこれらのFTA・EPAでは、電子商取引の促進に資する独立したルールである電子商取引章が設けられていることだ。今後、各国間における電子商取引に関する共通ルールの整備が加速すると考えられる。
(1)電子商取引の現状と今後の潜在性
電子商取引は、情報技術の普及等に伴い世界的に拡大している。ITインフラを活用することにより、企業の事業規模や立地等に左右されずに事業を展開することが可能となるため、電子商取引は、事業者及び個人の商業活動として重要なツールであるといえる。加えて、国境を越えた取引が可能となるため、これまで国際市場にアクセスできなかった事業者等にとっても、ビジネスチャンスが広がることになる。
経済産業省「平成25年度日アセアン越境電子商取引に関する調査」(2014年5月)及び「平成25年度電子商取引に関する市場調査」(2014年8月)によると、2013年時点の日本向け越境電子商取引(※2)の市場規模は、中国3,902億円、米国4,323億円、アセアン5ヵ国(※3)34.7億円となっている。また、「平成25年度電子商取引に関する市場調査」(2014年8月)によると、2020年時点での日本、中国、米国の越境電子商取引の市場規模は、最も拡大するシナリオにおいて推計した場合、最大4兆891億円に達すると試算されている。
このように、越境電子商取引が今後ますます拡大の方向にあることを背景に、事業者・消費者双方にとっての市場アクセスの改善を行うために、各国政府が、EPAにおいて、電子商取引章を規定する例が増加している。

(2)EPAにおける電子商取引章
2003年に発効したオーストラリア・シンガポールFTA、米国・シンガポールFTAにおいて電子商取引章が設けられて以降、特に米国等が主導する形で、電子商取引章をFTA・EPA内に導入する例が増えてきている。図表2の通り、米国は16ヵ国と電子商取引章を導入しているが、日本が電子商取引章を導入しているのは2009年に発効したスイスのみである。将来的には、上述したオーストラリアやモンゴルとのEPAにおいても電子商取引章が導入されることが見込まれているため、各規律について、サービスの提供者と利用者双方の視点を考慮した、より具体的な規律を盛り込むことが望まれている。

(3)電子商取引章の規律について
電子商取引章における規律は、国ごとにその規定内容はさまざまであるが、基本的には電子商取引における促進の観点から、「電子的送信に対する関税の不賦課」、「デジタル・プロダクトの無差別待遇」、「消費者及び個人情報の保護」等について規定されている。先に触れた日中韓FTA、TPP等のメガFTAにおいても、上記規律等の規定を盛り込むことで各国は一致している。このように、市場アクセスのし易さからアジアをターゲットとしている事業者にとっては、EPAにおける電子商取引章の普及は、さらなる事業拡大の可能性を高めることにつながろう。

(※1)FTA・EPA相手国との貿易額が貿易総額に占める割合
(※2)自国以外の国へ電子商取引を行うこと。別名、クロスボーダートレーディング
(※3)シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム
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