2013年08月14日
有価証券報告書などの法定開示書類をインターネット上で閲覧できる金融庁の電子開示システムEDINETが、平成25年度中に刷新される。平成25年12月31日以降終了決算に係る有価証券報告書または四半期決算に係る四半期報告書からの適用を目指して、準備が進められている(適用日は正式には未定)。
1.現行EDINETからの主な改善点と影響
(1)定量的情報の分析が容易に
現行EDINETでは、有価証券報告書等の財務諸表本表について、XBRL(eXtensible Business Reporting Language)というコンピュータ言語で作成されており、財務諸表のデータをそのままコンピュータに取り込んで分析できるようになっている。次世代EDINETにおいては、データを取り込める範囲が財務諸表本表のみならず、いわゆるハイライト情報や大株主の状況、貸借対照表・損益計算書関係の注記項目のうち貸倒引当金などの数値、セグメント情報に広がり、定量的情報についての分析が容易になることが期待される。この他、大量保有報告書についてもXBRL化されることになっており、有価証券報告書と大量保有報告書のデータを名寄せすることで、複雑な持株関係を把握しやすくなると考えられる。
(2)定性的情報の検索が高度に
現行EDINETでは、定性的情報はHTML形式で作成されており、全文検索機能などを使って必要なキーワードを検索するが、有価証券報告書の項目を絞って検索することはできず、必ずしも使い勝手の良いものではなかった。次世代EDINETでは、目次項目別の検索機能や、同じ項目を複数年度間や複数企業間で比較表示するなどの機能が追加される予定であり、さらに、検索によって抽出した結果をCSV形式でダウンロードすることも可能となる。これによって、定性的情報をテキストマイニング手法を用いて分析したり、定量的情報と組み合わせた、より高度な分析が容易になる。
複数企業間の比較分析でいえば、例えば、類似企業の「業績等の概要」「対処すべき課題」「事業等のリスク」、「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に書かれた内容(いわゆるMD&A:Management Discussion & Analysis)を定量的情報と併せて比較・分析する。これによって、同一環境下において、どのような戦略の相違があり、それがどのような結果に結びついているかといったことが理解しやすくなる。また、経営者の環境分析や業績分析が適切に行われ、改善のための適切な施策が講じられているかといったこともより見やすくなる。また、コーポレート・ガバナンスの状況と業績の関係を分析するようなことも考えられる。
このような分析を投資家自身が比較的容易にできるようになることによって、次世代EDINETにおいては、有価証券報告書等の定性的情報、特にMD&Aの利用価値が飛躍的に高まる。これまで、速報値としての決算短信を重視し、有価証券報告書をあまり活用してこなかった投資家等も、今後は、決算短信と有価証券報告書をうまく使い分けることになるであろう。
2.経営者にとっての次世代EDINET
一方、上場会社の経営者にとっては、今まで以上に、定性的情報の充実にも気を配らなければならなくなるであろう。自社の置かれている環境や対応、そして結果をどれだけきちっと分析し、記載しているかという点を厳しく評価されるようになり、社内の経営管理体制の充実、経営戦略立案能力の向上が必要とされるケースも生じてくる可能性がある。
すでに、次世代EDINETに対応した投資家向け分析ツールやサービスも開発されつつある。経営者にとっては、経理部門などが次世代EDINETに技術的に対応するのみならず、EDINETに開示された情報がどのように使われ、どのように見られ、結果として経営者がどう評価されるようになるか、という点を意識し、対応を検討しておくことも有用なのではないか。
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