2013年04月18日
条文・規則だけで「分かること」と「分からないこと」
ミャンマーは2011年3月に民政移管し、経済改革を急ピッチで進めている。法律の未整備や各種インフラ等、多くの課題を抱えている一方、2012年5月の米国による制裁緩和以降、アジアの新たな事業投資先候補としてますます世界中から注目を集めている。昨今ミャンマーへの進出を検討する日系企業の報道もよく目にするようになった。
今後ミャンマーへの進出を検討する日系企業が増加する中、会社設立の手続きに関する法律に一層関心が高まるものと考えられる。外国企業がミャンマーに進出する場合、最も重要な法律の1つである外国投資法が2012年11月に改正された(以下、「新外国投資法」という)。「新外国投資法」は全20章57条から構成されている。外国投資法が1988年に制定されて以来、初めての法改正である。「新外国投資法」では外国企業の最低資本金基準は法律で定めず、ミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission、以下「MIC」という)に委ねられるケースもでてくる。
2013年1月には同法の運用ガイドラインとして施行細則が公表された。外国企業が制限または禁止される投資事業や合弁事業における事業分野ごとの規制等が定められている。しかし、規則を見ても曖昧な箇所もあり、最終的にはMICの承認判断に任せるしかないケースもでてくるのが現状である。事業分野によっては監督所管省のライセンスが求められるなど、動いてみてはじめてわかることもあるので、予想外に申請手続きに時間がかかるケースも多い。
「新外国投資法」の条文や規則だけでは原則の方向性は分かっても、MICなどに裁量をあえて持たせているという性質上、どの案件も実際に動き出してみないとその時、何が正しくて、何が正しくないのかが分からないと言っても過言ではない。逆に、条文では規制されていても、合理的な条件がそろえば特認承認も可能性がゼロでないということである。
ミャンマーで法律と向き合うには「胆力」が必要
筆者が進出相談を日々受けているコンサルティングの現場の話を紹介すると、ミャンマー進出検討企業のうち、「法律の解釈が100%クリアにならないと進出できない」と回答する担当者に出会うことが、しばしばある。
株主への説明責任やコンプライアンスチェックの要求水準が高まる中、仕方ない面もある。しかし、いくら進出手続きの法解釈を事前に調べつくそうとしても不透明さをゼロにすることは難しいのが実情である。
筆者は、2013年2月、現地ですでに会社運営をしている日系を含む外国企業30社弱を個別訪問し、「現地での経営課題」について直接経営層にインタビューする機会に恵まれた。
進出手続き時には、必要書類やプロセスがはっきりしないまま会社設立の申請書類をそろえることに奔走し、法人の認可を得ることに苦労した、と回答する企業が大半を占めた。ミャンマー進出後も、ビジネス上、法の解釈をめぐって困難に直面することもしばしばあるという。しかし、ミャンマーへ進出済み企業はリスクを抱えながら、または認識しながら経営を行っている企業ばかりである。現地で10年以上経営していても、クリアにならない問題がたくさんあるのである。ひとつひとつ、その場その場で解決しながら最善策を講じて経営を行っている。まさに非定型業務処理の連続で、今日正しいことが明日も正しいとは言えない状況なのである。
調査をしてある程度クリアになるものもあるが、法の解釈は「いくら調べても不明確なものはいつまでたっても不明確なままである」ということを現地企業ヒアリング調査で確認することができた。
ミャンマーへの進出手続き以外の分野で、「実行可能性調査」や「採算性調査」が終わり、事業投資メリットを確認できている検討企業にとって認識して欲しいことは、不透明なことをゼロにするまで手続き調査をしようと思うとなかなかそれ以上前進できない、ということである。一定のリスクを許容し、ミャンマー進出の手続き開始後に、問題が生じても相談できるネットワークを構築しておくことが重要である。
そしてミャンマーでいかに利益を上げるかという本来の進出目的である意識を強く持って経営にまい進することが肝要である。
「新外国投資法」をはじめ、法の解釈や申請手続きにおいては、1度や2度窓口を訪問した程度では解決しないことも多いであろう。窓口担当者によって言うことが異なることもあるであろう。しかし、何度も何度も根気よくやり抜く「胆力」がミャンマービジネスでは必要なのである。
経営を意味する「management(マネジメント)」の動詞「manage」の熟語に「manage to」があり「何とかやってのける」という意味がある。この熟語を覚えた高校生の時には、なぜその意味になるのかよくわからなかったが、今の歳になって、その意味がよく理解できる。そんなことをヤンゴンの空の下で思った。
ミャンマーの事業投資にメリットがあると判断している検討企業があれば、「新外国投資法」や規則の解釈に躊躇して立ち止まるのではなく、「胆力」を持ち、そして相談できる良きパートナーを見つけて、是非前進して欲しい。
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