2012年11月08日
最近、中国東北部の農村地域を訪問する機会があった。中国の東北3省と呼ばれる地域は、恵まれた土壌から中国における食糧(米・トウモロコシ・小麦)の産地であり、一人当たり食糧生産量も非常に高いことで有名である。但し、農業の条件は厳しく、11月から4月までの冬季には平均気温が零下となるため、訪問した10月中旬は収穫時期の最後であった。
そこで印象に残ったのは、栽培・収穫後の農地整理のため、見渡す限りの広大な農地に数人の農民が作業する風景であった。実際に立ち会うことはなかったが、収穫は専門オペレーターが、短い収穫時期を最大限利用するために農機を持ち込んで収穫のみを行うとのことであった。その他の作業においてもある程度の機能を持つ農機が導入されているものの、その利用は非常に牧歌的な面もあり、やはり人力に依存している部分が多いようであった。
また、畑では青年期・壮年期の人が少なく、高齢の農業従事者が多いことも目に付いた。下図は2010年に実施された第6次人口センサスにおける人口ピラミッドである。全体としては「一人っ子政策」の影響を受けて、1990年代のような“ピラミッド型”から、15歳から45歳までの層が多い反面、14歳以下の人口が非常に少ない“つぼ型”に移行し、将来的に人口減少が危惧される状況にある。更に都市部(城市および鎮)と農村部(郷村)に区分すると、急速に経済成長した都市部の雇用拡大による農村から都市部への労働力の流入が見られる。全年齢層での都市部人口と農村部人口はほぼ半々であるが、15歳から64歳までの生産年齢人口に限ると、都市部に偏りがある。また65歳以上の高齢者人口比率は、都市部の7.8%に対し、農村部ではすでに10.1%に達している。
厳密には都市部と農村部の区分は農業と非農業の区分とは合致しないが、今後急速に高齢化が進む中国でも、特に農村部での高齢化が早期に深刻化することが想定される。現在の戸籍や公共サービス等の諸制度や所得格差を見ても、人々が農業に回帰することは見込みづらく、いわゆる専業農家は急速に減少していくであろう。
一方で、食文化やライフスタイルの変化により中国の食糧需要は急速に拡大している。これまでも積極的な農地確保、高収量品種の導入等により、農作物の増産を達成してきた。しかし10年後の農業の姿を考えると、農業自体の担い手が減少する事態が想定され、生産性向上に向けては、多機能・高性能な農機の導入による機械化の発展と、それに沿った農業体系の設計、また農村単位での栽培の大規模化や農業合作社といった組織経営の推進等が発展の方向として求められよう。
出所)中国人民共和国国家統計局編『第六次全国人口普査(全国人口センサス)』に基づき大和総研作成。
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