2012年09月10日
消費と投資のバランス
日米の一人当たりGDPが現在の中国の水準であった1970年代以降の両国の景気変動を見ると、消費は比較的安定的に推移しており、成長率の変動は消費以外の需要項目に大きく左右されている。中国の場合も、中期的には、消費と投資のインバランスを改善していくことが望ましいが、成長率への大きな影響を回避するためには、短期的には、引き続き従来同様、ある程度の投資を確保していく必要がある。またそれが、近年進んでいる対外インバランスの是正の流れを維持することにもつながる。
日米の一人当たりGDPが現在の中国の水準であった1970年代以降の両国の景気変動を見ると、消費は比較的安定的に推移しており、成長率の変動は消費以外の需要項目に大きく左右されている。中国の場合も、中期的には、消費と投資のインバランスを改善していくことが望ましいが、成長率への大きな影響を回避するためには、短期的には、引き続き従来同様、ある程度の投資を確保していく必要がある。またそれが、近年進んでいる対外インバランスの是正の流れを維持することにもつながる。
しかし、これはあくまで短期的な話である。中国は、その高水準の投資を、外からの資金ではなく、高い国内貯蓄で賄ってきており、投資コストは、人為的低金利政策と、銀行の重厚長大の国有企業偏重の下で、一般の預金者や中小企業のいわば犠牲によって、低く抑えられてきている。このため、金融緩和すると投資は増加しても、金利低下がすでに高い家計への金融抑圧(実質マイナスの預金金利)をさらに高めることになって、消費へのマイナスの資産効果が一層悪化する。他方、金融引締めは、短期的には投資依存の成長をスローダウンさせるが、(1)貯蓄の収益率を高め、消費を刺激する、(2)低い投資コスト・投資依存体質が投資収益率をさらに低下させるという悪循環を改善する効果が期待されることから、引締め気味の政策は、中長期的には、むしろ経済のリバランスに資することになる。短期的に高水準の投資を維持するとしても、それによって、中長期的な構造調整の必要性がさらに増すことも考えなければならない。
供給面の構造調整
2011年、中国の1次(農業)、2次(製造業)、3次(サービス業)産業の比率は、10.1%、46.8%、43.1%、製造業のうち70%は重工業で、これが固定投資の主体となって成長を牽引してきた。これに対し、日米独のサービス産業比率は、いずれもGDPの約4分の3、一般的に、一人当たりGDPが1万ドル以上の経済の3次産業比率は平均63%程度と言われており、こうした国際比較から単純に考えれば、中国では経済がさらに成長していく過程で、産業構造調整を通じ、サービス産業をまだまだ大きく伸ばす余地がある。
現12次5ヵ年計画策定に合わせて行われた国務院発展研究中心の中期予測では、2030年までに、3次産業比率は、標準シナリオで50.9%、構造調整加速シナリオで57.4%まで上昇する。そのためには、現在国有企業中心になっている金融、医療サービス、教育、鉄道、航空、インフラ等の部門の規制緩和と、民間資本の参入促進が有効だろう。それはまた、行き場のない民間資金が不動産市場に流れ、バブル的状況を起こした近年の経験を繰り返さないことにもつながる。
対外インバランス—貿易構造の変化
2008年のグローバル金融危機以降、中国の対外インバランスは大きく改善してきている。その背景には、欧米経済のスローダウンという海外要因に加え、国内要因として、人民元の上昇、国内インフレ、賃金の大幅上昇がある。対外インバランスとの関連で、近年の貿易構造について、次のような変化が注目される。第一は、中国の輸出相手先として、新興・途上地域の比重が高まっていることである。2002年、米国・日本・EU向け輸出の総輸出に占めるシェアが計51.2%、アセアン・アフリカ・ラ米が計12.2%であったが、2011年、各々43.7%、19.2%、2012年第一四半期には43.3%、19.6%となっている。特に日米向け輸出シェアの低下が著しい一方、対アフリカ・ラ米向け輸出シェアが大きく伸びている。近年、輸出鈍化がマクロ景気に与える影響を相殺して成長率を維持するため、むしろ国内不均衡は拡大してきた。中国の主要輸出先が先進地域であることになお変わりはないが、成長率の高い新興・途上地域向け輸出シェアが伸びてきていることから、先進経済の停滞からくる影響は緩和され、その分、内需による調整負担は軽減されてくる。
第二に、長年、中国の貿易構造は輸出入とも加工貿易が主体であったが、2009年以降、一般貿易の増加が顕著である。特に一般製品の輸入が大きく増加しており、総輸入の6割近くを占めるに到っている。一般製品の輸出も、総輸出に占める割合はなお5割を切っているものの、増加傾向にある。この結果、すでに一般貿易(輸出入総額)は総貿易の5割を超えており、一般貿易だけでみると赤字基調で、貿易黒字は加工貿易で記録する格好になっている。人民元相場は、2005年通貨バスケットに移行してから、年平均5-6%のペースで上昇する一方、12次5ヵ年計画では、計画期間中、最低賃金を少なくとも年13%以上引き上げていく目標が示されている。これらが意味することは、個人の購買力が増し消費が拡大していくこと、それによって一般製品の輸入がさらに増加し、貿易収支全体の均衡化に資するようになることだ。また輸出面では、労働コストの増加と人民元相場の上昇で、特に労働集約的な製品の輸出競争力が低下し、より付加価値の高い製品の輸出へと輸出構造が高度化していくと予想される。
第三は、上記にもかかわらず、近年の対外インバランス是正をもたらしている輸入の増加は、なお主として、機械・輸送設備を中心とする工業製品や鉄・銅等の鉱物資源であり、これらの輸入は、国内の投資が大きく増加してきたことに依存しているということだ。鉱物資源の輸入が総輸入に占めるシェアは、2003-2007年の9.9%から、グローバル金融危機への対応のため4兆元の大型財政刺激策が導入された2008年から2012年3月の間は14.7%へと上昇、また機械・輸送設備を含む工業製品の輸入シェアは、上記第二の変化に対応して、同期間やや低下しているとはいえ、なお70%近い。したがって、対外インバランスの是正は、現状、国内インバランスの拡大と裏腹の関係にあり、国内投資が急激に減速した場合、対外インバランスが再び拡大する可能性がある(続く)。
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