2012年08月09日

ここ数ヶ月間、中国の定年退職年齢の引き上げが話題となっているが、少子高齢化の裏づけでもある。世界的に見ても中国の定年(男性が60歳、女性が55歳)が早すぎるのだ。中国の公的年金システムと医療システムの健全性が懸念されている。一方、政府の間では、すでに定年退職年齢の引き上げ論議が始まったようだ。それを機に、世界の投資家の目がまた中国に向かい、医療・介護セクターへの投資が活発になっていくと考えられる。高齢化社会の影響はシルバー産業だけではなく、生命保険業にも及んでいるようだ。中国の生保業界は過去10年、大きな成長を遂げた。図1のように、2010年度の中国の生保会社の総資産は4兆2642億元で、2002年からの8年間に実に8倍以上に膨らんだ。
- 公的年金・医療制度の不十分さ
中国の公的医療保険がカバーできる範囲が限られており、公的年金も最低生活水準しか保証できないのが現状である。特に3大疾病やガンについて、輸入薬や先進医療は対象外だ。更に、すべて保険適用内であっても、治療費が高く、公的年金では賄えない。 - 生保業界の法整備とサービスの充実
生保業界の法整備はもちろん、生命保険募集人の資格審査もより厳しく、更に、FP資格を所持する募集人も数多く在籍している。 - 人口構成の変化
一人っ子政策により、中国の人口構成が大きく変わり、特に沿岸大都市では、すでに高齢社会に突入している。この状況がしばらく続くであろう。公式統計ではないが、上海では2015年に高齢者が全人口の30%を占めるという超高齢社会になるという。ここ数年中国の生保市場は大きく成長してきたが、現状では中国の生保加入率はまだ低く、ある外資系生保の統計によると、中国の生保加入率は約3割で、保険業界にも数多くの問題が残されている。保険加入者への説明が不十分であること、保険金の不払いなどが、いまだにトラブルの原因になっている。更に、一般消費者も生保そのものが理解できていない。このような問題が中国の生保業界の成長を阻害している。

中国生保業界の資本構成を見ると、意外にも外資が少ない。外資の生保参入について、中国政府は基本的に抑制している。特に独資の参入が禁止されており、合弁でもハードルが高い。そのため、現状として、中国の生保業界ではほぼ中国系が独占している。図2が示す通り、外資の保険料収入は中国系の10分の1にとどまり、特に、ここ数年、中国系の目覚しい成長とは対照的に、外資の伸びが鈍い。また、外資が伸び悩んでいるもう一つの理由が商品設計にある。これまで中国の国民性を考慮せず、自国の保険商品をそのまま中国に持ち込むことが、外資では多く見られた。
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