2012年03月01日
2012年2月に入って、特許庁や経済産業省内の「政府模倣品・海賊版対策総合窓口」のWEBニュースリリースには、アセアン諸国を対象とした知的財産権についての公表が目立つ。また、ジェトロでは、2012年3月に「東南アジア知財ネットワーク」を設立すると発表した。このように、ASEANや東南アジアの国々を対象とした知的財産権をテーマとする動きが活発化した状況を振り返ってみたい。
ASEANを舞台とした一連の知的財産権を巡る日本政府の行動が顕著となった契機は、2012年2月8日に東京で開催された、アセアン知財庁と日本の特許庁による第一回日アセアン特許庁長官会合であろう。その後の一連の経過は以下の通りである。
2月8日 | 第一回日アセアン特許庁長官会合で「東京知財声明」を採択 |
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2月9日 | 日本特許庁がフィリピン知的財産庁と特許審査ハイウェイを開始 |
2月15日 | 日本特許庁がベトナム国家知的財産庁と知的財産における協力覚書を締結 |
2月17日 | 日本の政府模倣品・海賊版対策総合窓口がマレーシア政府に対して、日本製品の知的財産権の侵害への早期対応を要請 |
2月21日 | ジェトロが3月に「東南アジア知財ネットワーク」を設立と発表(事務局はジェトロ・バンコク事務所) |
第一回日アセアン特許庁長官会合の開催は、以前からワーキンググループ会合をはじめとする周到な準備がすすめられていた結果であろう。アセアンの持続的な経済成長には、知的財産の保護の強化が重要との認識の下、日本がリーダーシップを発揮しつつ、日本の過去の経験やノウハウを提供することによって、アセアンの共通の知財ルール策定に貢献することが、この会合で確認された。同時に、既にアセアン地域に進出済み、あるいは、これから進出する日本企業の知財権が現地で保護され、その知財活動に障害がないようにするため、アセアン全体、また個別国の制度整備を促す方向での協力も狙っている。
「東京知財声明」では、アセアンが今後も経済成長を続けていくためには、知的財産権の保護が必要であり、そのために日本が協力していくことを確認している。お互いの知財管轄官庁を「パートナー」と呼び、日アセアンの共栄のために協力すると謳っているが、これは2015年のアセアン経済共同体の創設を念頭においているはずである。また、第二回日アセアン知財庁長官会合(シンガポール)を2012年7月に開催、今後は長官級会合を定例化していく計画である。
2015年というゴールを目指す中で、日本政府は個別の国々の実情に応じた方策も構築していく様子である。特許の早期審査制度を有しないフィリピンとは、特許審査ハイウェイ制度を開始することで、日本企業が日本での審査結果に基づいて、特許を適格かつ迅速に取得できるようになる。知的財産制度自体が十分に整っていないベトナムとは、知財インフラの制度を整備することで日本企業の知財権が保護される事を狙う。マレーシアに対しては、既に存在する知財制度の実効性を高めるように要求して、日本企業の利益を守る。ジェトロの東南アジア知財ネットワークは、この地域で活動する日本企業の知財活動を支援し、域内共通あるいは各国別の知財制度の設立を狙う。
以上の動きは、各国及びアセアン全体との交渉を通じて日本企業の知財権を保護し、拡大するアセアン市場でその普及を促していくことで、日本企業の利益成長、ひいては日本経済の成長を擁護することに繋がると言ってよいだろう。日本政府は、インフラ輸出に注力しているが、いわゆる鉄道や道路といったハード面のインフラだけではなく、知的財産権も重要なソフト面でのインフラである。こうした見方に基づき、2015年のアセアン経済共同体の創設というゴールを視野に入れたうえで、知財制度の整備と定着に協力する日本の特許庁はじめ関係者には、日本とアセアンの共栄に向けて大いに期待したいと思う。
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