国連アジアパシフィックビジネスフォーラムに参加して

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去る7月25・26両日、国連アジアパシフィックビジネスフォーラム(主催:国連アジア太平洋経済社会委員会、以下ESCAP)がバンコクで開催された。筆者は発表者として参加したが、国連の経済社会開発に向けたビジネスコミュニティとの連携について学ぶ貴重な経験となった。

国連では「国際平和・安全の維持」を目的とする基本的な活動に加え、「経済的・社会的・文化的・人道的な国際問題の解決、および人権・基本的自由の助長のための国際協力」(国連憲章1条)をも活動目的としている。アジア太平洋地域についてはESCAP(1947年創設 62カ国が加盟)が執行機関となっている。

国連アジアパシフィックビジネスフォーラムは、ビジネスコミュニティ連携の一環として位置づけられ、アジア太平洋地域での重要なビジネス課題について、ビジネス界代表、政府関係者、国際機関および市民社会団体代表、学識経験者など様々な関係者が、一同に会する討議の場となっている。8回目を数える今回のフォーラムでは、参加者が500名を越え(民間企業42%、政府部門23%、市民団体12%、研究機関12%、国際機関6%、個人5%)、しかも半数以上が開催国タイ以外からの参加者と国際色豊かなものとなった。今年のテーマは「Facing Challenges, Capturing Opportunities(チャレンジを通じたビジネス機会の取り込み)」で、新たな貿易と投資機会の拡大を目指し、3つの全体会議および5つの小会議で、直面する諸課題を巡って活発な議論が交わされた。

冒頭の全体会議第一部「Roundtable Discussion among Subregional Private Sector Representatives」では、南アジア地域協力連合(SAARC)商工会議所代表、拡大メコン(GMS)ビジネスフォーラム代表、APECビジネス諮問委員会代表、ASEANビジネス諮問委員会代表が、域内で直面するビジネスコミュニティの課題について討議し、サブリージョナルレベルでの協力関係強化を進める重要性が確認された。また今回の東日本大震災の影響もあって域内におけるサプライチェーン強化の重要性を共有した上で、交通や港湾施設をはじめとするインフラストラクチャーの整備が必要なこと、さらに関税手続きの緩和を含む域内の貿易協定の進展が欠かせないことが確認された。

次の全体会議第二部では「Can Asia and the Pacific lead global business? (アジアパシフィック地域はグローバルビジネスを主導できるか)」が討議テーマとなった。アジア太平洋地域経済は、域内の市場規模や莫大な天然資源の存在を考慮すると、極めて高いビジネスポテンシャルを有している。また、同地域は基本的に障壁の少ないオープンな貿易・経済体制下にあり、域外ビジネスコミュニティとの対話強化を通じてグローバルビジネスを主導するポテンシャルは十分あることが指摘されている。

一方、いくつかの課題も示された。一例として筆者は、重要な課題として(1)持続的な経済成長のための資金供給、(2)域内貯蓄の有効活用を可能とする金融手段の提供、さらには(3)金融資本市場の整備と金融産業の育成、の3点を指摘している。これに対して参加者からは、特に海外労働者送金と金融資本市場整備をどのように関連させてゆくかが、途上国特有の重要な課題であるとの意見が述べられた。さらにもう一つ、CSR(企業の社会的責任)の推進も課題に挙げられている。アジア地域がグローバルビジネスで主導的な役割を担うには、域内の経済成長や発展が必要なのは無論だが、1人でも多くの者が人間の尊厳を保持した社会生活を可能ならしめる環境整備が何よりも重要と考えられることによる。

全体会議第三部では、「Improving Business Connectivity in Asia and the Pacific(アジア太平洋地域におけるビジネスコネクティビティ)」が取り上げられた。具体的には、中小企業が域内のビジネスネットワーク(たとえば、物流、エネルギー供給、金融サービス、情報通信網など)内で企業活動ができる環境整備が検討された。特に、経済統合が進み域内クロスボーダービジネスがより活発になる中では、各国ベースの個別対応よりも、テーマによっては(たとえば交通や港湾インフラなど)アジアのサブリージョナルレベル(GMS やBIMP-EAGA(ビンプ・東ASEAN成長地域))での対応、あるいは包括的なレベルでの対応(ASEAN、SAARC、APECなど)が必要となる。中でも国際機関(WTO, UN, UNCTAD, UNIDO, UNESCAPなど)の役割はより重要になると考えられ、これら機関を活用することではじめて中小企業のビジネスコネクティビティへの組み込みが可能になる点が強調された。

本フォーラムは、国連と民間セクターによる経済社会開発をどのように進めてゆくか、またインドやバングラディッシュなど南アジアを含めたアジア太平洋地域での経済開発とビジネスの課題など多くのことを学ぶ絶好の機会であった。また、サブリージョナルレベルでのビジネスコミュニティの緊密な連携が、アジアの高い経済成長の推進要因のひとつになっている印象を禁じえなかった。残念ながら日本からの参加者を見かけなかったが、アジアの高成長を日本経済に取り込むには、こうした場の積極活用でビジネスコミュニティとの連携強化を図ることが極めて重要と痛感した次第である。


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