2011年08月04日
ここ数年の中国消費マーケットの特徴として、経済発展に伴う全体的な所得水準の向上を背景とした新たな中間層の出現による内需の拡大と、富裕層と呼ばれる人々の増加がある。
例えば、自動車の普及により大都市での交通渋滞は既に日常化してきたが、その中で日本でも稀にしか見かけないような欧州の高級大型車が散見されるようになってきたことに驚かされる。日本企業の中にも、中国の大規模な中間層よりも、一部の富裕層向けに特化した付加価値の高いサービスや製品を提供したいと考える企業も多いと思われる。だが実際に、そのような富裕層は、どの様な生活をしているのだろうか。
中国の調査機構である胡潤百富が、今年の4月に公開した「2011胡润财富报告(Hurun Wealth Report 2011)(※1)」によれば、2010年末時点で1,000万元(日本円で約1億2千万円)以上の個人資産を保有する「千万富豪」は全国で前年比9.7%増の96万人、更に1億元(日本円にして約12億円)以上を保有する「億万富豪」と呼ばれる人達は前年比9%増の6万人に達したとのことである。「千万富豪」は、事業主が最も多く、次いで不動産投資、有価証券投資など各種投資による資産形成に成功した人々、そのほか高収入の大型企業の幹部から構成される。彼らのライフスタイルは、主に不動産投資に関心を持ちながら、高級車や高級時計等の購入にも積極的である。また子供の海外留学や自身のための大学院等への教育投資も進めながら、一方では、休暇には欧米を中心に平均して年3回程度の海外へも旅行するという。実に、「千万富豪」の約半数が年間100万元(約1,200万円)~300万元(約3,600万円)を消費する層であり、非常に大きな市場と言えよう。更に、「億万富豪」になると、大型の不動産だけでなく高級車やモーターボートを持つような生活をしながら、実際に余剰資金を事業投資する投資家の顔をもつようになる。
実際に、このような生活をする富裕層は、沿海部の大都市である北京市、広東省、上海市、浙江省の4地域に約6割が集中している(下図参照)。既に多くの日本企業は、このような沿海主要地域で事業展開を進めながら顧客開拓に努めてきたと思われるが、今後、更なる中国国内での市場開拓に向けては、それ以外の地域に着目することも必要になろう。実際に上記4都市以外の地域の中で、富裕層が1万人の規模に達し、同時に2009年末に比べて20%近く増加している地域として、陝西省や内モンゴル自治区、重慶市など内陸部のエリアが挙げられる。これら地域は、人口・経済規模ともに比較的小規模ながら、それぞれの要因から経済成長のスピードは速く、その中で着実に富裕層は形成されつつあると言える。もちろん近い将来には、これら地域でも中間層が増加し、現在の沿海都市のような消費構造が形成されることと想定されるが、それを待たずとも、既に現地のマーケットに対して影響力を持ちつつ、海外の情報と感覚を備えた富裕層が存在していることは注目に値する。彼ら富裕層にアプローチして顧客化することで、現地におけるブランドを効率的に構築することが可能となろう。また同時に、彼らは、海外の先進的な製品やサービスの導入といった新たな事業への投資にも強い関心を持っている場合が多く、彼らを現地での有望な事業パートナーとする展開も想定される。中国で多極的な展開を検討しながらも、効率的に経営資源を投下したい企業にとっては、彼らに市場開拓を任せることで互恵関係を構築するチャンスとなろう。

(※1)胡潤百富ウェブサイトより
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