2011年04月25日
開発途上国への事業展開を模索する日本企業にとって、「BOPビジネス」が新たな事業領域として注目を集めている(※1) 。日本では、2009年が「BOPビジネス元年」といわれ、ここ数年、政府機関等によるBOPビジネス推進のための研究会やセミナーが各地で相次いで開催されてきた。
ところで概して言えば、BOPビシネスとは、開発途上国の低所得者層を対象に行う新規事業に他ならない。基本的には新たな事業を立ち上げる場合と同様の考え方で臨む必要がある。単純化はできないが、成功する新規事業にはそれまでの常識を超えた製品・サービス・ビジネスモデルなどを含んでいる場合が多い。結果として、あくまでも「市場ニーズ」に合致したからこそ、ビジネスとして受け入れられ、成功につながったというわけだ。
こう考えると、BOPビジネスの成功には、既存の常識に縛られずに(1)「市場ニーズ」の的確な把握、(2)ニーズに合致した製品・サービス等の開発、(3)持続可能なビジネスモデルの構築などのポイントについて、できるだけBOP層に近い「現地目線」で取り組む姿勢が不可欠なのではないか。そして現地目線を取り入れるには、自らの足で地道に踏査することが何よりも肝要だろう。
もっとも、コスト面での制約等がある中では、現地ネットワークを有するパートナーとの連携も最重要ポイントのひとつである。実際、BOPビジネスで一定の成果を挙げている欧米系の多国籍企業には、NGOやNPOなどと連携しているケースが多く、企業単独では収集困難な情報等を効率的に入手することが可能なようである。現地ネットワークを有する組織には、NGOやNPOに止まらず、政府機関(地方政府等も含む)、大学、各種の地域コミュニティ、さらには現地企業、現地事情に詳しい日本企業などが含まれるが、いずれにせよ各々の事業形態に合致したパートナーをこれらから選ぶことが重要だ。そして、持続可能なBOPビジネスを構築するには、企業の利益に加え、現地にとっても便益をもたらす仕組みの確立が求められる。現地への便益が見えない状況では、関係者の協力が得にくくなることは容易に想像できるだろう。
既存の成功事例から学ぶべき点も少なくないだろうが、目指すビジネスの性格、対象国(地域)、時期などが異なれば、臨機応変な調整が必要なのもまた事実である。この意味で「BOPビジネス」に王道はなく、結局のところ、実情に応じた「現地化」を着実に追求していくことが成功への第一歩と言わざるを得ない。その際に何よりも重要なのは、「現地におけるネットワーク構築」と指摘しておこう。
(※1)諸説あるため明確な定義付けはなされていないが、BOP(Base of the Economic Pyramid)とは、世界人口のうち、一人当たり年間所得が2002年購買力平価で3,000ドル以下の低所得者層をいう(“The Next 4 Billion” (2007) World Resource Institute, International Finance Corporation)場合が多いようである。「BOPビジネス」とは、生産者・販売者・消費者としてBOP層を組み込んだビジネスとして位置づけられる。
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