2011年04月07日
(骨子)
- 人類社会の究極的な目標は、言うまでもなく、個々人の包括的な意味での発展、幸福の実現であるが、多くの国の政府は、必ずしも社会厚生の拡大にはつながらない高い経済成長率を政策の最優先課題としてきた。いかに成長と社会厚生の調和を図りながら豊かな社会を実現していくかは、各国政府に課せられた喫緊の課題である。
- 人々の幸福度や社会全体の厚生をどのように評価するかという問題は、個人の効用とそれに基づく様々な選択肢に対する選好がどのように計測できるのか、個人間の効用は比較可能であるのか、一定の条件の下で、どのような社会厚生関数が存在し得るのか否かといった問題として議論されてきたが、各個人によって異なる価値判断にも関係しており、これまでのところ理論経済学の世界で明確な結論は出ていない。本稿では、確率的効用(本文注参照)という概念に基づき、これまで提示されてきた様々な社会厚生関数をそれぞれ特別なケースとして扱い得る、またそれらにより強い理論的基礎を提供する枠組みの提示を試みている。
- 中国を含むいくつかの国の社会厚生状態を評価するため、GDP規模等の絶対的所得水準のみならず、所得格差の程度や最低賃金などについても比較検証を行い、また、主観的な幸福度、平均寿命などの非貨幣的な要因についても、若干の検証を提示している。
- 中国は、長らく経済成長率を重視し、GDP規模では、2010年、日本を抜き世界2位となった。しかし他方で、地域間の不均衡、所得格差の拡大、環境汚染といった問題が深刻化してきており、その社会厚生は、必ずしも高い経済成長に見合っては改善していない。今後、こうした点に着目し、その改善を図っていくことによって、真の豊かさを実現していくことが期待される。
(※1)本稿は、中国社会科学院経済研究所の趙志君教授兼上級研究員が、2010年10月から2011年1月にかけ、財務省財務総合政策研究所客員研究員として滞日した際に、同教授の依頼を受けて行った共同研究、“Variable (random or uncertain) Cardinal Utility, Moral Value Judgment and Social Welfare in China and Japan”を基にまとめたものである。英文ペーパーの全文は、財務省ウェブサイトに掲載されている。
◆財務総研トピックス 2011年2月
◆論文
◆財務総研トピックス 2011年2月
◆論文
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