2011年03月16日
「生産拠点としての中国」から「大市場としての中国」へと関心が移るにつれて、日本企業では製造から販売・サービス提供まで中国事業全体に関する戦略を策定し、実施・管理に移すことが重視されるようになっている。これに伴い、これまで製造製品やサービスなど事業展開に対応して中国子会社を設立してきたが、複数の中国子会社を広く統括する持株会社を設置することを検討する例も増えてきているようだ。
外資による中国子会社の統括・支援機能を担う会社の形態に「投資性公司」がある。中国における外資系投資性公司は90年代より設立されているが、現存の投資性公司の基本的な条件は「外国投資家が投資により投資性公司を設立・運営することに関する規定(商務部令2004年第22号)」とその後の補充規定によっており、すでに設立されている日系投資性公司の多くもこれら規定に基づき設立されている。当該規定によれば、通常の外資系企業(合弁・合作・独資など外商投資企業)に認められる経営範囲に比べ、傘下企業への投資、グループ内企業の原材料調達や販売、アフターサービス、傘下企業の人事労務・総務の代行など広範な事業範囲が認められることになる。
一方で、その設立条件は通常の外資系企業の設立に比べて一段と厳しく定められている。投資性公司の設立認可機関には中央政府(商務部)と地方政府(北京市・上海市・広州市)とがあるが(それぞれ認可要件が若干異なる)、最低登録資本金の大きさや、これまでの中国国内での投資実績、実際の投資行動に関して高いハードルが設けられている。日本企業としては、単純な資本関係の見直しに留まらず、中国事業に対する将来的な投資コミットメントの継続性や投資における合理化効果が相当程度見込まれるなど多くの前提条件をクリアせねばならない(設立基準は下表参照)。実際には、単に中国現地の組織再編にとどまらず、日本側でも地域や製品群毎の事業部門による管理・運営の集約化や全体の中国事業に係る管理部門として位置付け強化など抜本的な改革を同時に進めることが肝要との声も小さくない。その位、中国事業へのフルコミットと覚悟がなければ中国での投資性公司設立は割に合わないとの指摘だ。
既存のアジア拠点や中国拠点との関係や、新興市場として関心が高まるインドシナ・インド市場などを含めた視点からは、投資環境が比較的緩やかなシンガポールや香港の子会社を持ち株会社として活用した方が現実的なことも少なくない。今後、中国政府による投資性公司に関する一層の規制緩和・見直しが求められることは論をまたないが、広範囲に亘る総務的機能やグループ横断的な資金調達・財務管理機能などを中心に、中国での統括会社設立の必要性や効果を慎重に見極めた上での行動が求められよう。
【代表的な投資性公司の例とその設立基準】
(出所:当該法令より大和総研作成)
審査機関 | 企業名称 | 設立要件 |
---|---|---|
中央政府 (商務部) |
投資性公司 |
|
上海市政府 | 地区総部 (管理性公司として) |
|
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