2011年01月18日
周知の通り、米アップル社のiPhone は2007年6月の発売開始以来、世界中を席巻している。日本では2010年7-9月期の販売台数シェアが5位まで浮上した。ソフトバンクモバイルではiPhone効果が業績を押し上げている。
中国でも日本と同じく、iPhoneは大変な人気である。このiPhoneを呼び水にシェア拡大を狙ったのが中国聯通である。同社は2009年10月に米アップル社と提携し、iPhone 3GSを独占的に導入、バンドルパッケージで販売した。また、2010年9月末には、2年間の通話プランを契約する新規加入者に対して、iPhone 4本体をアップルストアでの価格より安価あるいは無料で提供するキャンペーンを開始した。iPhone 4 16GBの価格は以下の通りである。
通話プラン (元/月) | 96 | 126 | 156 | 186 | 226 | 286 | 386 | 586 | 886 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
本体価格 (元) | 3899 | 3599 | 2799 | 2399 | 1799 | 0 | 0 | 0 | 0 |
デポジット (元) | 1981 | 2281 | 3081 | 3481 | 4081 | 5880 | 5880 | 5880 | 5880 |
ユーザーへの通話料返金額 (元/月) | 82 | 95 | 128 | 145 | 170 | 245 | 245 | 245 | 245 |
例えば、上の表のうち286元の料金プランを見てみよう。5,880元をデポジットとして支払えば、iPhone4本体を入手でき、さらにその5,880元は24ヶ月分割でユーザーに返金される仕組みとなっている。iPhone 4の市場価格は6,000元以上といわれていることを考えると、中国聯通の料金プランはかなりお得といえる。なお、筆者はアップルオンラインストアに電話で問合せてみたが、11月分の数万台のiPhone 4はわずか2時間で完売し、次の仕入れ時期は不明とのことであった。
この中国聯通のキャンペーンは注目を集め、契約希望者が殺到した。9月25日からわずか3日間で、第1ラウンドの10万台のiPhone4が完売、10月には販売数が20万台に達した。さらに、60万人が契約待ちであったという。
この中国聯通のiPhone販促キャンペーンは大成功にみえたものの、11月に入ると、突然このキャンペーンを一時中止すると発表された。バンドルパッケージが悪用されたことが理由である。無視できない数の加入者が携帯電話本体を携帯電話番号(SIM カード)と分離し、それを他人に販売することで不正に利益を得ていたことが明るみに出た。
例えば、中国聯通の販売店で5,880元を支払い、月286元の通話プランを2年間契約する。この場でiPhone 4本体とSIM カードを入手できる。次に、その携帯電話本体を市場価格(6,000元とする)で他人に販売し、5,880元の通話料が入っているSIM カードを別の人に半額(3,000元とする)で譲るとしよう。そうすれば、簡単に3,000元を儲けることができるのである。中国聯通によれば、30万人のiPhoneバンドルパッケージ利用者のうち、約2割が携帯電話本体とSIM カードを切り離している。中国聯通は、2年間の通話料と引き換えにiPhone端末の調達コストをかぶる格好となっているから、このような悪用は億元単位の損失をもたらしたと推測されている。
11月末に中国聯通はiPhone販促キャンペーンを再開したが、新規ユーザーに対しては新しい条件を付け加えた。携帯電話本体と番号の分離を禁じ、違反した場合には本体をリモートロックし、その番号を取消すなどの措置を取ることとした。
結局、今のところ中国聯通のiPhone戦略は成功したとはいい難いのが現状だ。これまでに中国国内では100万台のiPhoneが売れたと見られているが、このうち中国聯通の加入者は3分の1に過ぎないとされる。中国のiPhoneユーザーは中国移動の加入者の方が多いのである。主な理由は以下の3つと考えられる。
- 中国移動と比べて、もともと聯通の受信状況は悪く、カバー地域が限られているという不利が知られており、利用者の間で評判があまり良くない。
- 中国ではiPhoneの「水貨」が多数存在している。「水貨」とは非正規ルート、つまり、正式な通関手続きなしで国内市場に入ってきたもののことである。税金が徴収されないため、同商品の市販価格より安いのである。そのかわり、品質の保障とアフターサービスは付いていない。
- 上述のバンドル加入者による悪用である。せっかく補助されたiPhoneを持ってライバル他社のキャリアーに加入すれば、相手の市場シェアに貢献してしまうことなる。
なお、2011年には中国電信がCDMA版iPhoneを投入するという観測がある。発売された場合、iPhone購入者の動向にどのような変化が生じるか注目される。
参考資料
2010年11月末時点で、中国の移動体通信ユーザーは8.33億人で、キャリアー別市場シェアは以下の通りである。
キャリアー | シェア | 加入者数 |
---|---|---|
中国移動(チャイナ・モバイル) | 69.6% | 5.79億人 |
中国聯通(チャイナ・ユニコム) | 19.9% | 1.66億人 |
中国電信(チャイナ・テレコム) | 10.5% | 0.88億人 |
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