2010年11月05日
中国に進出した日系企業にとって、中国の文化を理解し、中国人と円滑なコミュニケーションを図ることは中国ビジネス成功への大きなポイントとなる。ただし、日本と中国は地理的に隣国であり同じ漢字文化圏に属するものの、仕事観、価値観、歴史観は全く異なると言ってよい。
ビジネスにおいて、中国人は自分自身の業務の責任範囲を明確にし、個人の成果に対する評価や処遇を求める「個人主義」「成果主義」を選好する。また、仕事を通じて自己の成長やスキルアップを重視する「キャリア志向」である。こうした点から中国人の仕事観は欧米型に近いと言える。
では、日本人が中国人と異なる文化の壁を乗り越え、コミュニケーションを図るためにはどうしたらよいのか。筆者は以下の2点に理解を示すことが肝要と考える。
1.言語構造に見る中国文化への理解
中国語を学んだ者なら実感すると思うが、中国語の言語構造は英語と似ている。文法的に言えば、日本語や韓国語のように助詞が無いため、語順が重要な意味を持つ。一般平叙文では先頭に原則「主語+述語」の要素で文章が構成され、主題についての結論がわかりやすい。そして、英語のように「Yes」「No」をはっきりとさせる点も同様で、否定を表す「不(bu)」や「没(mei)」も文の先頭の方にやってくる。
もう一つ重要と考えられるのは、現代中国語には尊敬語がほとんどない点である。日本では、直接的にモノを言ったりすることは無骨であり、婉曲表現を使うことが丁寧とされている。しかし、日本人同士のような曖昧な表現をすると「あの日本人はいったい何が言いたいのかわからない」「何をよろしく頼む、というのか具体的に指示して欲しい」というような不信感につながってしまう。そのため、中国人とコミュニケーションするにはストレートな表現を用いてはっきり主張することも必要だ。「No」の場合にはその背景、根拠を加えて述べればよいのである。
曖昧な言葉を避け、「Yes-No」の方向性をはっきり言うこと以外に工夫する余地はまだある。中国では、日本のような尊敬語や謙譲語がほとんどない代わりに、口調や顔の表情、ボディランゲージが重要な意味を成す。相手への敬意は言葉でなく、非言語で伝わるのである。そのため、慎重に言葉を選ぶことと同じくらい、ふるまいにも気を配ることが重要である。中国語をネイティブと同じレベルで話せないのであれば、むしろ「言語」によるコミュニケーションよりも「非言語コミュニケーション」の方に配慮することが大切である。普段日本人に話しかける時よりも、表情豊かに熱意をもって接することを実践するだけで、思いのほか中国人の信頼は厚くなるだろう。
2.面子文化への理解
中国人はとても面子を重んじる民族であり、ビジネス上でも中国人の面子文化を理解することは非常に重要である。
例えば、中国ビジネスにおいては、指導の名の下に人前で上司が部下を叱責してはならない。相手の立場やプライドを傷つけない気配りが、言葉だけでなく、態度、行動の細部にまで必要である。相手の長所をほめ、能力を認め、面子を立てながら気持ちよく仕事をしてもらうことが、結果的には得策である。中国人の面子文化への理解で双方の絆は強くなるであろう。
中国に進出した日系企業は、中国人社員に日本語レベルや文化を理解させようと求めるのと同様に、日本側にも相手の理解を深める努力が求められる。異文化融合のためには、双方が相手に興味を持ち、業務だけでなく異文化への理解を深めようとする姿勢が不可欠だ。普段から仕事面以外の食文化や趣味といった「共通の話題」を見出したり、宴席コミュニケーションを欠かさないなど不断の努力が重要なのは言うまでもない。
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