2009年08月19日
償還方式の選択は、地方自治体の資金調達を考える上での重要な検討課題となっている。
10年債が満期一括償還方式で発行される場合、一定部分については予め満期時の借換を想定することによってより長期の債券に期待できると同様の効果を追求し、残る部分についての償還原資を減債基金によって確保するという方法が採られることが多い。単純化のため借換を想定せず、償還に充当する原資を全額手当てするために減債基金が積立てられると仮定した場合、満期一括償還方式の債券にかかる支払利息額及び減債基金積立額は、元金均等償還方式を採る債券の金利・元本支払額との比較でみれば図1のような推移を辿ることになる。

ここでは表面率1.5%での額面発行と3年の据置期間を前提としているが(数値は額面100に対する値)、据置期間の存在による効果は大きく、キャッシュ・フロー流列で測った発行者コストは元金均等償還方式では0.821%に抑制される。元利均等償還方式でも0.827%と、ほぼ同水準となる。
この図からは、最終年度に発生している元本償還額と減債基金繰入額のキャップで支払利息格差を吸収するためには相当程度の運用収益率が求められるとの印象を受けるが、実は減債基金の運用収益率に0.725%を想定したこの例では、満期一括償還方式での実質発行者コストも元金均等償還方式に等しい0.821%である。
見落とされがちなポイントはキャッシュ・アウト面からの差異である。減債基金に繰入れられる資金は、目的使用のために最終的に取崩されるまで、元本償還に充当されるものとは性格を異にしている。
これを考えれば、地方自治体の資金運用・調達の効率化を図る上での基金と歳計現金等の一元管理の重要性は自明であり、対象を他の積立基金にまで拡大することによって、その効果にも向上が期待できる。資金の一括管理を前提とする繰換えは、流動性と安定的運用、運用資産の見直し、機会費用の把握と一時的外部借入とのコスト比較といった新たな課題を生むことになるが、安全性を前提とした公的資金管理の機動性、効率性の実現のためには、これを避けて通ることはできない。
満期一括償還方式のコストに関する議論も、最適借換比率、所要収益率といった概念が反映されることによって資金管理・運用方針の見直しにつながる新たな次元のものとなってくる。このような視点を備えることは、公営企業会計等を含む連結基準での地方自治体の調達・運用政策の見直しにもつながろう。
“金融”の概念が導入されれば、自治体の資金効率には格段に向上する余地が存在する。

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