共済事業を行う公益法人に待ち受けるもう一つのハードル

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  • 経済調査部 市川 拓也
新公益法人制度への移行認定・認可申請の期限まであと約2年となった。新たな公益法人制度への移行申請を済ませた法人数は平成23年10月末現在、公益法人への申請が3,914法人、一般法人への申請が2,163法人となっている(※1)。急ピッチで増加しているとはいえ、新制度スタート時の旧公益法人数の約1/4の水準に過ぎず、やはり全体としてみれば移行の遅れが解消されていないとの見方ができる。移行が遅れる一般的な理由として、(1)公益目的事業に該当するかの判断がつかないために他の事例をみたい、(2)税制上、公益法人に比べて不利になる一般法人への申請は期限終了の近くで移行したいなどの法人側の積極的な意思による遅れがあげられる。しかし、別の理由から遅れている法人群がある。それは共済事業を行う法人である。

旧公益法人として行っていた共済事業は、平成22年の改正保険業法の改正によって、改正保険業法が公布された時点で行っていた従来の共済事業は特定保険業として旧主務官庁から認可を受ければ、当分の間、継続できることになった。平成17年の改正保険業法により、保険会社や制度共済への転換、少額短期保険業者登録といった選択を迫られていたところからすれば、新たな選択肢ができたことになるため、共済事業の継続を望む法人にとっては歓迎すべきことである。しかし、新公益法人制度への移行認定・認可申請の前に認可特定保険業の認可を取得する必要があるため、まずこちらを先にクリアしなければならないのである。

認可特定保険業の認可を容易に取得できれば、法人の判断でその後の移行申請を早めることも可能となるが、認可取得のハードルは低くないとみられる。「財務諸表、組織に関する事項、主要な業務の内容、リスク管理体制等」を書類として開示し、責任準備金等の積立てに関して「保険料積立金、未経過保険料、異常危険準備金、支払備金等の区分に応じ、主要制度共済に準じた積立基準」を整えるなど、厳しい要求がなされている(※2)。このほか認可特定保険業者として1年超の保険を引き受ける場合には保険計理人の選任が必要であり(※3)、“保険”を取り扱う業者としてしっかりとした体制が求められている。

もっとも、監督に関する基本的考え方には、「これまでの経緯から、認可特定保険業者の実態はその態勢等の面で多種多様であることが予想されることから、本監督指針の適用にあたっては、各評価項目の字義通りの対応が行われていない場合であっても、必ずしも不適切とするものでないことに留意し、機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮する必要がある。」(※4)という部分もあることから、各旧主務官庁から柔軟な対応を期待できないわけではない。しかし、保険計理人が関与する場合は、責任準備金に関して適正に積立がなされていることの確認がなされることを考えると、少なくともこの部分からは厳格さを求められることになるとみるのが妥当であろう。

移行期限は平成25年11月であり、保険計理人のチェックから予備審査を経て認可特定保険業申請までの時間が読みづらいなかで、作業を進めざるを得ないことを考えると、時間的に十分余裕があるとはいいがたい。特定保険業に係る保険等の運用として行う貸付は、貸金業法の「貸金業」から除かれる(※5)とされるが、仮に貸金業者として登録が必要となればこのためにも時間を要する。共済事業を行う法人が認可特定保険事業者として確実に移行するためには、これらを考慮して旧主務官庁と相談の上、早めに対応を取ることが望ましいであろう。

(※1)内閣府『新公益法人制度における全国申請状況(速報版)』(平成20年12月1日~平成23年10月31日)
(※2)金融庁『政令・主務省令のポイント』
(※3)金融庁『認可特定保険業者に関するQ&A』Q19 参照
(※4)金融庁『認可特定保険業者向けの総合的な監督指針の概容』
(※5)金融庁『保険業法施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令(案)・認可特定保険業者等に関する命令(案)に対するコメントの概要及びコメントに対する考え方』番号30参照

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