ポスト京都に向けて、「25%削減」のもつ意味とは?

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日本が国際舞台において称賛を浴びたのは何年ぶりのことであろうか。鳩山総理の表明した我が国の「温室効果ガス削減中期目標1990年比25%削減」はそれほどのインパクトがあった。


2013年以降の枠組が未定である京都議定書は多くの問題を抱え、その存在さえが問われている中、今回表明された25%削減の持つ意味を考えてみる。


京都議定書の最大の問題は、米国の不参加及び大量排出国が途上国という理由で削減義務を免れている点にある。この枠組において、EUは存在感を高め、排出量取引の世界ではEU-ETSが先進事例となり、ユーロが基軸通貨として扱われている。


しかし、京都議定書第一約束期間が始まって、2年経過しようとしているが、事態は大きく変わろうとしている。この間、米国では民主党オバマ氏が大統領となり、我が国でも鳩山民主党への政権交代があった。もはや京都議定書採択に向けて議論していた時期とは国際環境が大きく変化している。地球温暖化をめぐる国際関係においても、排出量の世界一の座は米国から中国へ移り、新興国というアクターが大きな発言力を持つにいたっている。


実際、最近はMEF(※1)(エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム)と呼ばれる先進国と新興国による会合に注目が集まっている。京都議定書上の削減義務をもつ国の排出割合が約25%強であるのに対し、先進国と中国、インド等を合わせたMEF参加国の排出総量は世界の約80%を占め(下図参照)、今や新興国抜きに地球温暖化問題は語れない状況である。そこで、新たな枠組においては、新興国にも何らかの削減義務を課そうという動きが出ている。


このような状況下、2013年以降のいわゆるポスト京都の枠組を決めるCOP15の開催が迫っている。ポスト京都で目指されるものは、米国を含むできるだけ多くの国が参加し、先進国からの技術・資金援助を基盤にして新興国も削減義務を持ち、その他途上国も国情に応じて自主的努力を行えるような枠組である。したがって、注目すべきなのは、(1)中国を中心とした新興国がどこまでの削減義務を受けるか (2)それに対して、米国がどのレベルで妥協点を見出すか (3)先進国がどこまで削減目標を上げ、途上国に対して資金・技術援助を出すか (4)それに対して、中国等途上国がどのレベルで妥協点を見いだせるかなどの諸点である。


米国はオバマ政権が温暖化対策を重要政策課題に挙げており、新たな枠組への参加が大きく期待されている。しかし、京都議定書離脱時と同様に産業界からの反対がある他、やはり、大量排出国が削減義務を持たない枠組では意味がないということを理由に、少なくとも中国が何らかの削減義務を持つことが米国参加の一つの条件になっていると言われている。


従って、米国と中国の動向如何によって、2013年以降の枠組は大きく異なったものになる可能性がある。つまり、(1)改正京都議定書に基づくものとなるか、(2)新たに構築される枠組になるのか、もしくは(3)複数に分裂した枠組となってしまうのか、ということが2カ国の動向に左右されるということである。


一方、この米中の動向に影響を与え得るのは、EUそして日本の出方である。EUは2020年中期目標を90年比20%削減としているが(※2)、おそらくは日本の提示した25%という数字が、他の先進国に対してより高い目標を要求し、新興国に対して削減義務を要求するための最低ラインであると思われる。なぜならIPCCが第4次評価報告書において、大気中の温室効果ガス濃度を450ppm(CO2換算)レベルで安定させるために必要な先進国の削減幅として、2020年までに1990年比25~40%が必要との示唆と受け止められる内容を発表しているからである(※3)。また、一昨年、インドネシアのバリで開催されたCOP13においても、世界の温室効果ガス排出量を2050年までに現状から半減させることが必要であり、そのために先進国全体で2020年に1990年比で25~40%の削減が必要であるとの確認がなされているからである。


最低であれ、このラインを最初に超えたことが重要なのである。COP15では共通だが差異ある責任原則(※4)の下、共有ビジョン、削減、適応、技術移転、資金援助などの話合いがもたれる予定である。ただ、具体的なルールなどについてはCOP16まで約1年かけて議論していくことになるであろう。


つまり、今大切なことは25%削減可能か否かということではなく、ポスト京都の枠組み構築に向けた具体的交渉テーブルにおける交渉権限を確保することができたという点である。


「90年比25%削減」という高い目標を掲げた日本は、新しい枠組み構築に向け、EU、米国、中国の3極主導とならぬよう、積極的にリーダーシップをとり、多くの国民が納得のいくような枠組構築に向けて全力を注ぐことが期待されている。

世界のCO2排出量割合(2006年)

(※1)米国オバマ大統領が今年3月に、先進国と途上国との間で率直な意見交換を進め、COP15の成功に必要な政治的リーダーシップを確立するために発足させた。第一回目には主要8カ国にオーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、南アフリカを加えた計16カ国と欧州連合(EU)が参加した。

(※2)EUは他の先進国の削減目標によっては30%削減にする可能性もある。

(※3)中国や一部途上国が先進国に対して求めている中期削減目標値のマイナス40%という数値もこのIPCCの報告書が元になっていると思われる。

(※4)地球環境問題に対しては共通責任があるが、各国の問題回避への寄与度と能力とは異なっているという考え方。1992年の地球環境サミットで採択された「リオデジャネイロ宣言」や「アジェンダ21」においてはじめて明示的に用いられ、UNFCCC「気候変動枠組み条約」でも採用されている。

(※5)G8については、オーストラリアが含まれていないため、若干のずれが生じている。

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