2018年01月24日
昨今、人材不足感の高まりや企業の社会的責任(CSR)への取り組みの浸透を背景として、健康経営(※1)に取り組む企業が増えている。経済産業省が東京証券取引所と共同で実施している「健康経営銘柄」の選定において、2017年度は、前年度の573社を大きく上回る726社から健康経営度調査票の提出があった。しかし、「健康経営」はここ数年間で急速に普及が進んだ概念であり、まだ、企業内部に十分な実践のノウハウが蓄積されているとは言えない状況である。2017年7月の東京商工会議所の調査では、健康経営の実践における課題において「方法が分からない」(38.1%)、「ノウハウがない」(22.7%)、「社内の人員がいない」(22.7%)などの回答が寄せられている(図表1)。健康経営に取り組む企業が増加する一方で、外部専門家によるサポートや、組織内における健康経営推進者の育成に対するニーズは依然として高いことが示唆されている。

さて、外部からの健康経営実践支援において、ヘルスケア企業やフィットネス企業、食品企業、ウェアラブル端末メーカーやシンクタンクは、それぞれの特長を活かした商品やサービスの提供を始めている。また、東京商工会議所は、健康経営アドバイザーの認定を受けた社会保険労務士や中小企業診断士、保健師や管理栄養士等の専門家を、会員企業に派遣するサービスを行っている。こうした外部専門家によるサポートの土台は、着実に整ってきていると言えるだろう。
一方、組織内における健康経営推進者の育成は、企業の課題であり続けていると見られる。健康経営推進者に求められるスキルは幅広く、いわゆる健康オタクのような人が健康経営の推進者として適切であるとは限らない。むしろ、偏った健康の知識や経験を有していることが、かえって健康経営推進者としての適性を損ねてしまうケースも見受けられる。
推進者の役割は、健康に関する専門家になることではなく、社内の仕組みや文化をよく理解し、実際に現場に足を運び、役職員の話を聞き、その会社にあった健康経営のコンセプトを確立することや、数値目標を設定することである。健康経営推進者に求められるスキルは、従業員の心身の健康状態を正しく把握する「調査力」、目指すべき方向性を決める「コンセプト設計力」および「ゴール設計力」、実際の取り組みにつなげる「企画力」、そしてそれぞれの専門家に必要なサポートをしてもらえる体制を社内外に築き上げる「ネットワーク力」などであるとも言えよう。
大和総研では、健康経営の導入支援コンサルティングを行うとともに、一般社団法人日本健康企業推進者協会(東京渋谷区)と連携し、健康経営推進者の育成と推進者ネットワークの形成に取り組んでいる。同協会では、健康経営推進者の育成を目的とした「健康企業指導員養成講座」の提供を2017年11月から開始し、当社のコンサルタントも同プログラムの共同講師を務めている。同講座は少人数制によるレクチャー&コミュニケーション形式の講座であり、受講者は実際の事例紹介やワークショップなどを通じ、上に挙げた健康経営推進者としてのスキルを総合的に身に着けることができるほか、推進者同士のネットワークをゼロから形成することもできる。
健康経営に継続的に取り組み、組織の文化として浸透させていくにあたって、社内の人材が果たすべき役割は大きい。大和総研では、健康経営の導入から定着まで、総合的なサポートを行っている。健康経営の導入を検討する際、または既に実践している健康経営の取り組み強化を検討する際には、ぜひご相談をいただければ幸甚である。
(ご参考)
一般社団法人日本健康企業推進者協会
(※1)「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標。従業員の健康の維持・増進に積極的な投資を行い、経営課題の解決や事業の成長につなげるという考え方。
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