2011年11月30日
2011年、人事の分野で流行語大賞を決めるとすれば「グローバル人事」「グローバル人材」といった用語がノミネートされることだろう。私自身、グローバル人事に関するコンサルティングも行ったし、これに関する数多くの講演を聴き、文献を読んできた。ただ、冷静に考えると日本中の全ての企業がこの問題に直面しているわけでもないだろう。実際、労務行政研究所のアンケート記事(※1)によれば、人事担当者が直面している課題として「グローバル人材の登用・育成」をあげたのは16.5%(18位)にとどまっている。グローバルというテーマは経営戦略と不可分であり、人事部門主導で始めるといった類のものではない。将来はともかくとして、2011年時点では、「ウチの会社は、グローバルは関係ないから」と考えている人事担当者も結構多いのではないだろうか。
しかしながら、現在必死になってグローバル人事に取り組んでいる企業を見ていくと、経営環境の変化によって、急にこの問題に直面した企業も多い。環境変化のスピードの速さに比して、グローバル人材の育成には時間がかかることにも注意が必要だ。
そこで、こうした点を踏まえ、「グローバル人事はまだ早い」という企業の人事担当者向けに、今からできる取り組みを提案したい。特に時間がかかるであろう「グローバルリーダーの育成」を念頭にマネジャー(管理職)を対象とした人事施策を2点紹介する。
まずは基礎編として「評価とフィードバックの研修」を実施することだ。研修自体は既に実施しているという企業も多いかと思うが、お勧めしたいのは「人事考課のケーススタディとフィードバック面談のロールプレイを含めた参加型の研修」だ。評価とフィードバックは、海外のマネジメントにおいては国内以上に重要なポイントとなるが、まず日本人正社員に対してきちんとできていなければ話にならない。そのためにはまず「体験」によって自分のレベルを認識させることが効果的だ。それが模擬体験だとしても、自分自身で他者との違いに気づき、自ら改善を施すことによって、評価とフィードバックに関して、「自分の型」を固めることが可能になる。
人事部門にとっても、こうした体験型の研修でひとりひとりをじっくり観察することによって、人事マネジメントの観点からグローバルリーダー候補の目星をつけることができるだろう。海外勤務者の選定に当たっては、事業部門(ライン)主導で行われることが一般的だと思うが、事業を優先するあまり人事マネジメント面でトラブルを起こすケースも散見される。海外人事に関して、人事マネジメントの観点からコメントできるよう準備しておくことも、人事部門の重要な役割であると思う。
次に応用編として提案したいのは、「ダイバーシティ対応のサポート」だ。最近の職場は派遣社員や育児短時間勤務者等、多様な雇用形態・勤務形態の社員が混在しており、マネジャーの管理負荷が高まっていることが多い。このようなマネジャーへのサポート施策として、社員の区分ごとに「労働法令」→「自社の人事制度」の順序で、趣旨とルールについて改めて説明する機会を設けてはいかがだろうか。育児短時間勤務者を例にとっていえば、まず「育児介護休業法」の趣旨と法定の休業ルールをセットで説明し、そのうえで自社の人事制度の趣旨とルールを説明する。法定を上回るルールを設定している企業なら女性活用推進であるとか、法定どおりならコンプライアンスの重視であるといったような制度趣旨説明を行うことにより、マネジャーの理解を深めることができるだろう。
少し遠回りな印象を受けるかもしれないが、正社員のマネジメントを軸に、なぜそうした異なるマネジメントをしなければならないかが十分に理解できれば、ダイバーシティ関連課題に対応する基盤ができたと考えていいだろう。より高い効果を目指すなら、前出の評価同様、ケーススタディやロールプレイを取り込んだ体験型の研修を企画するのも面白い。ただし、人事部門の役割は、マネジャーの抱える課題そのものを解決するのではなく、課題対応能力が高まるようサポートしていくことなので、その点にはご留意いただきたい。
「正社員のマネジメントを軸に、法令→自社制度といったパターンで、その相違を認識して対応策を検討する」という型を身につけておけば、グローバル人事もその1パターンとして対処しやすくなるだろう。将来的に、海外に進出して現地の社員をマネジメントしていく場合、赴任国の労働法令を踏まえて、自社の人事制度を改定したり、人事マネジメントを工夫したりといった応用が期待できる。もちろん国内の職場で外国人社員を雇い入れる場合も同様である。
以上、「グローバル人事はまだ早い」という企業向けに提案を述べてきた。来年度の人事施策の検討にあたってご一考いただければ幸いである。
(※1)労政時報 第3798号2011.5.27 課題の上位は、(1)従業員のモチベーション向上(49.8%)(2)優秀な人材の確保・定着(47.8%)(3)従業員の能力開発・キャリア開発(36.9%)
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