2010年03月17日
少子高齢化による将来の国内市場の縮小を見据えて、企業は生き残りを掛けて思い切った再編を繰り返している。その再編の中で、各企業が設立している健康保険組合は、一つのビッグ・イシューになりつつある。また、これまで企業経営の中で、比較的注目度の低い福利厚生制度のうち、さらに関心の低いものであった健康保険組合は、今後企業業績向上の重要なビークルとして注目されるだろう。
【現在の医療保険制度の概要】
日本の医療保険制度は、国民のすべてが何らかの公的な医療保険に加入する制度である。これを国民皆保険制度という。75歳以上になると、高齢者全員を対象とした後期高齢者医療制度へ移行する(民主党のマニフェストで、医療保険制度の一元化が謳われており、後期高齢者制度は廃止し、被用者保険と国民健康保険を段階的に統合し将来は地域保健として一元的運用を図るとしている。厚生労働省によると、新しい高齢者医療制度は平成22年末までに「最終とりまとめ」を行い、平成25年4月新制度施行の予定である。)。
現状では財政状況の厳しい健康保険制度を、他の健康保険制度が財政支援することとなっている。したがって、相対的に財政が健全な健康保険組合は高齢者医療制度に多額の支援(以下、納付金等)を行っている。
そもそも健康保険組合とは、健康保険の仕事を行う公法人である。事業主の申請によって厚生労働大臣の認可を得て健康保険組合を設立し、事業所の実態に即した健康保険の仕事を運営することができる。なお、健康保険組合が設立されていない事業所は、全国健康保険協会が運営する健康保険(協会けんぽ)に加入する。

【現在の健康保険組合の問題】
平成20年度決算見込みについて、健康保険組合連合会(平成21年9月11日)が発表したところによると、平成21年3月末現在の組合数は1,497組合で、平成20年3月末の組合数(1,518組合)に比べて21組合減少している(うち14組合は解散)。組合数は平成7年度(1,819組合)以降毎年減少を続けている。高齢者医療への負担金である納付金等の急増などにより、健保組合全体で3,060億円もの大幅赤字、赤字組合は全組合の約7割である。

【健康保険組合の合併事例】
三越と伊勢丹は、2008年4月1日、共同持株会社「三越伊勢丹ホールディングス」を設立した。保険給付・保険事業基盤の整備充実と、三越伊勢丹グループの総合的な福祉の観点より、2010年4月、三越伊勢丹ホールディングスを母体事業主として両健康保険組合を合併する予定である。2011年4月、三越と伊勢丹の両事業会社合併に向けて総合的労働条件の整理をするうえで、福利厚生諸制度の統一を視野にいれた総合的な福利厚生制度の構築が基本となった。そこで、事業会社統合の1年前に役職員が安心して働ける環境整備を維持するため、両健康保険組合は合併することになった。

【百貨店の復活の鍵は人】
日本百貨店協会(平成22年2月18日)が発表した全国百貨店売上高概況によると、平成22年1月売上高は、23ヶ月連続の前年同月比マイナスである。その理由として、1980年代後半からのライフスタイルの変化に対応しきれなかったためといわれている。マーケットの変化に対応し切れなったのは人である。また、マーケットの変化をうけビジネスモデルを変えるのも人である。
競争優位に立つための鍵を握るのは人間である(アブラハム・マズロー、1962年)。社員の元気がとても大切である。その意味で、統合後企業での「同一健康保険組合」はシンボリックな「絆」である。
P.F.ドラッカーは、『マネジメント』という書物の中で、日本企業の成功事例の特徴の一つとして、「福利厚生が、少なくとも賃金と同じ程度に重視されること」といっている。
合併等で統合した会社の経営者は、統合効果を早期に引き出すために、社員の融和を引き出す施策に頭を悩ませている。一定期間社内の人事制度が統合前のまま平行して走る場合もあり、その一本化は大きな課題である。社員が1万人いれば、一万個の不満があるといわれている。
社員の人数だけある不満を解消する『触媒』として、健康保険組合の存在は、今後ますます大きくなると思われる。
三越伊勢丹健康保険組合の今後の取り組みに注目したい。
【関連レポート】
企業再編と健康保険組合
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