2016年度・持株会社導入レビュー

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2017年07月05日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 真木 和久

2016年度(2016年4月~2017年3月)において、「持株会社化」を決定した会社・「持株会社化の解消」を決定した会社がいくつかある。本稿では、それらの背景について考えてみたい。


①2016年6月30日に、北陸地方を地盤とし、ドラッグストアを展開する、クスリのアオキが、持株会社体制に移行すると発表した。株式交換により、2016年11月21日に、傘下に「クスリのアオキ」店舗の運営事業等の会社を置く。
プレスリリースには、「当社は、出店攻勢を加速させると共にドミナント経営を推進し、さらなる成長を目指しておりますが、今後、中長期的な企業価値向上を図り、持続的な成長を実現するためには、経営における意思決定の迅速化やM&A等を活用した事業規模の拡大を図る必要があり、そのための組織体制として、監督機能と業務執行機能を分離してグループ経営管理を強化することが必要であるとの観点から持株会社体制への移行を決定いたしました。」とある。


クスリのアオキのケースで特徴的なのは、株式交換・株式移転・会社分割等の手法について、「慎重に協議・検討」を行ったと、会社が表明していることである。同社創業家の資産管理会社である株式会社クスリのアオキホールディングス(旧有限会社二階堂)を株式交換完全親会社とする株式交換を利用する場合、同社は「持株会社の株主構成の透明性が向上し、当社のガバナンスに対する株主の皆様の理解がより一層深まるものと考えており」、株式交換を選択したと記載されている。持株会社体制移行において、手法等スキームについては、簡便な記載が一般的であるため、クスリのアオキのようにスキームを詳細に記述するケースは珍しい例といえる。
クスリのアオキ以外に、小売業界で持株会社化を決定した会社としては、中国地方を中心に郊外型紳士服専門チェーンを運営する、はるやま商事(2016年10月19日公表)、九州を地盤にディスカウントストアを営むミスターマックス(2017年2月9日公表)が挙げられる。


②2016年10月19日に、はるやま商事は、会社分割により、持株会社体制に移行すると発表した。プレスリリースによると、2017年1月4日に、はるやま商事は「はるやまホールディングス」に商号変更し、傘下に衣料品等の販売事業会社を置く。また、「当社グループが今後の成長戦略を支える経営体制として持株会社制に移行する目的」として、「(1)グループ戦略機能の強化」、「(2)事業会社に応じた価値創造力の発揮」、「(3)経営者人材の確保・育成」の3つを掲げている。


③2017年2月9日に、ミスターマックスは、会社分割により、持株会社体制に移行すると発表した。プレスリリースによると、2017年9月1日にミスターマックスは「ミスターマックス・ホールディングス」に商号変更し、傘下に小売事業会社を置く。プレスリリースには、「当社は、責任体制の明確化を図り、価値ある安さの提供と当社の収益を両立できるようローコスト経営に磨きをかけていくとともに、機動的な組織再編、戦略的なM&Aやアライアンスなど、環境の変化に即応できる体制を構築することが望ましいと判断し、持株会社体制へ移行する方針を決定いたしました。」とある。


上記で見た事例①~③は、グループ内の持株会社化である。つまり、現状のグループ内の会社形態を変えることにより、グループが目指す目標を達成しようとするものである。


持株会社化を決断する会社がある一方、持株会社体制を解消した会社もある。


④2017年1月16日に、通販を主力とする化粧品メーカーのファンケルは、100%子会社であるファンケル化粧品及びファンケルヘルスサイエンスを吸収合併すると発表した(2017年4月1日に合併。商号はファンケルのまま)。以下、プレスリリースを一部引用する。「平成26年4月1日に、事業ごとの専門性・自律性を高めたスピーディーな事業運営と、コーポレートガバナンス強化による経営の高度化を目的として持株会社体制に移行いたしました。また、平成27年度を初年度とする中期経営計画に基づいて、戦略的な広告投資による売上拡大を推し進めております。」と、2014年4月からの純粋持株会社体制移行・中期経営計画について記載している。
しかし、「…中期経営計画を策定した2年前に比べ、消費動向や競争環境など当社を取り巻く経営環境は大きく変化しており、柔軟な戦略実行が求められています。こうした環境変化に対し、当社グループ全体が持つ強みを複合的に生かしながら中期経営計画をより一層強力に推し進める体制を構築することを目的として、当社は、株式会社ファンケル化粧品、株式会社ファンケルヘルスサイエンスを平成29年4月1日付で吸収合併することといたしました。」と、持株会社体制の解消理由を記載している。
ファンケルは、2014年から持株会社制に移行し、翌年から中期経営計画を実現すべく各施策を講じていた。しかし、その後の環境変化により、3社一体運営に軸足を切り替えた方が中期経営計画の推進に寄与すると判断し、持株会社を解消したものと考えられる。


種々の理由により持株会社体制を解消する会社もあるが、現在、幅広い業界で持株会社体制が導入されている。


持株会社化には、グループ内の持株会社化以外に、経営統合としての持株会社化もある。以下では、その事例を見てみよう。


⑤2016年7月11日に、TVCM制作の業界最大手のAOI Pro.(以下「AOI Pro.」とする)と、同じく最大手のティー・ワイ・オー(以下「TYO」とする)が、株式移転による経営統合を公表した。共同株式移転により、2017年1月4日付けで持株会社であるAOI TYO Holdingsがスタートし、傘下にAOI Pro.とTYOを抱える。新体制では、持株会社が上場会社となり、AOI Pro.とTYOは上場廃止となる見込みである。AOI Pro.とTYOは、次のような「目的と効果」を想定しているとのことである。
「両社は、本経営統合により、業界をリードする新たなグループ企業として、先進的なビジネスモデルを構築するとともに、魅力あるサービスを提供し、日本のみならず、アジアNO.1の、映像を主とする広告関連サービス提供会社として、お取引先、株主、従業員、社会等すべてのステークホルダーに貢献する企業となることを目指します。」
(以上、プレスリリースによる)


AOI Pro.とTYOが「現時点において主力としているTVCM制作マーケットについては、中長期的には大きな成長を見込むことは難しい」との記述もあるが、一方で、スマートフォンやタブレット端末等の普及や通信速度の増加・VR(Virtual Reality=仮想現実)やAR(Augmented Reality=拡張現実)等の進化・海外市場の拡大等、広告事業拡大への寄与が見込める事象も出てきている。両社は、効率化を求めると同時に、チャンスを確実につかむため、経営統合を決断したものと思われる。
今回の再編は、「守り」だけでなく、今後も成長が見込まれる海外市場等の将来を見据えた「攻め」の動きであることにも、注目したい。


M&Aによる「のれん」の減損や、子会社の不適切会計等が報道される昨今、企業を取り巻く環境は、より厳しさを増している。今後、グループ・ガバナンスを強化するために、持株会社体制を選択する会社も増えてくるのではないだろうか。


最近の傾向として、「グループ経営の強化」や「コーポレート・ガバナンスの強化」を加速させる経営インフラとして、持株会社体制を導入する会社が増えていることを実感する。10年以上に亘り、大和総研は数多くの持株会社体制移行の支援を行ってきた。今後も相談先の一つとしてご検討頂ければ、幸いである。

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