2014年度下期・持株会社導入レビュー

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2015年05月27日

  • コンサルティング第一部 主任コンサルタント 真木 和久

2014年度下期(2014年10月~2015年3月)において、「持株会社化」を決定した会社がいくつかある。本稿では、それらのうち、「グループ内の持株会社化」の背景について考えてみたい。「グループ内の持株会社化」とは、現状のグループ内の会社形態を変えることにより、グループが求める持株会社化の目的を達成しようとするものをいい、他に「経営統合としての持株会社化」もある。


以下では、4つの事例を見ることとしたい(下記において、日付のみの記載は、2015年とする)。


① 2014年11月5日に、中部地区を地盤とする大手食品スーパーのバローが、持株会社体制に移行すると発表した。会社分割により、10月1日に、バローはバローホールディングスに商号変更し、傘下にスーパーマーケット事業、ホームセンター事業・ペットショップ事業等の会社を置く。持株会社体制への移行目的は、「(1)グループ戦略の構築・遂行、(2)管理機能集約による効率化、(3)個別事業の成長、(4)ガバナンスの強化、(5)人材育成」とある(プレスリリースによる)。このうち、「(3)個別事業の成長」には、「中核のスーパーマーケット事業に加え、特に、中部薬品株式会社が展開するドラッグストア事業と持株会社体制へ移行後に会社分割されるホームセンター事業の出店を加速し、当社の安定成長を担う主要事業へ成長させます。」と記載されており、注目される。


食品スーパー業界においては、少子高齢化等により消費マーケットが縮小し、企業間競争が激化する可能性が高い。一方、ドラッグストアやホームセンターは、今後の成長が期待される分野であるため、事業ポートフォリオのリバランスを意図した持株会社化と考えられる。


② 1月30日に、スポーツ専門小売大手のゼビオが、持株会社への移行を公表した。会社分割により10月1日に、商号をゼビオホールディングスに変更し、スポーツ用品等小売業は事業会社が行う体制となる。持株会社体制への移行目的は、「事業環境の急速な変化への迅速且つ適切な対応、既存事業領域における絶えざる変革と業容の拡大、及び関連する事業領域での国内外の有力企業との提携やM&Aの推進といった経営戦略を実現するための、事業シナジーの最大化とグループの健全な成長を促すガバナンス体制を確立するため。」とある(プレスリリースによる)。


ホームページで、会社沿革を見ると、ここ10年で、ヴィクトリアやゴルフパートナーを傘下に収める等、M&Aに積極的な会社であることがわかる。今回、スポーツ用品等小売事業会社は、買収したヴィクトリアやゴルフパートナーと兄弟会社の関係になる。一般的に、グループ経営・管理を本業とする持株会社配下の方が、事業会社配下よりもグループマネジメントが行いやすいと考えられる。実際、持株会社化した後に、M&Aを積極的に行う会社もみられる。


③ 3月6日に、和風即席食品首位の永谷園が、持株会社への移行を公表した(4月16日に、会社分割によると発表)。永谷園は、10月1日付で、永谷園ホールディングスに商号変更を行い、傘下に新・永谷園や麦の穂ホールディングス等を抱える。持株会社移行の目的として、「①経営環境の激変に応じて経営資源を迅速かつ最適な形で配分できるようにすること、②共通業務の集約等による効率化を行うこと、③各事業子会社の意思決定の迅速化による戦略的かつ機動的な事業運営を推進可能とすること、④監督と執行の分離を徹底させることによりガバナンス体制を一層充実させること等」を挙げている(プレスリリースによる)。


永谷園は、2013年に、上記の麦の穂ホールディングス(「ビアードパパ」を擁する洋菓子チェーン)を買収している。お茶漬け、ふりかけ、味噌汁が同社の主力事業であるが、洋菓子事業という別分野の買収も、持株会社の一つのきっかけになったのではないかと推測される。


上記①~③に共通する持株会社体制移行の目的が、「ガバナンスの強化」である。東京証券取引所の改正上場規則により、上場企業は6月1日より、コーポレートガバナンス・コードについて対応が求められているため、この対応も意識したものと考えられる。


また、会社法の改正が5月1日に行われたが、持株会社化と併せて、新制度の「監査等委員会設置会社」に移行する会社も現れた。


④ 2月5日に、石油精製元売り大手のコスモ石油は、10月1日に、持株会社体制に移行すると発表した。株式移転により、コスモエネルギーホールディングスを設立し、同時に上場する(コスモ石油は上場廃止となる予定)。その後、コスモ石油を、会社分割し、他の事業会社と兄弟関係に移行する(2016年1月1日を目途)。持株会社移行の目的として、「(1)事業競争力の強化と持株会社の収益安定化、(2)グループ経営強化と経営資源シフトの加速、(3)事業毎のアライアンス推進」を挙げている。以下、プレスリリースを一部引用する。「ガバナンス強化の観点からも『経営監督機能』と『業務執行機能』を分離する持株会社体制は適していると考えております。…持株会社の統治形態は、ガバナンス強化の観点から、監査等委員会設置会社といたします。」


コスモ石油と同様、持株会社化と同時に、「監査等委員会設置会社」に移行する事例として、他にバイテック(10月1日にバイテックホールディングスに商号変更予定)が挙げられる。


今後、ガバナンス強化も目的の一つとして、持株会社化を行ったり、監査等委員会設置会社に移行したりする事例は、出てくるのではないかと考えられる。


10年以上に亘り、大和総研は数多くの持株会社体制移行の支援を行ってきた。最近の傾向として、「ガバナンスの強化」や「グループ経営体制の強化」を加速させる経営インフラとして、持株会社体制を導入する会社が増えているのも、実感としてある。


こういったことを考える際、大和総研も相談先の一つとしてご検討頂ければ、幸いである。

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