「稼ぐ力」を向上させるためには労働生産性向上が必要

そのために、労働生産の状況の「多面的な可視化」から始めることが肝要

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  • 佐井 吾光

企業の戦略を確実に実行するためには、生産性の高い社員の存在が不可欠である、という意見には誰もが賛成するだろう。


元IBM会長兼最高経営責任者(CEO)である、ルイス・ガースナーの執筆した経営書『巨象も踊る』によると、「経営戦略には限界があり、経営の実行力こそが重要で、競争相手よりうまく正しくやりとげることが、とっても重要だ」といっている。


また、「適切な行動を競争相手より、より速く、より巧みに行うことが重要である」ともいっている。


では、日本企業各社は労働生産性が高いのだろうか、低いのだろうか。
OECD加盟諸国の労働生産性(2012年度、34カ国比較)調査によると、日本は21位である。
主要先進7カ国(米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア、日本)の中では、最下位である。


そこで、日本及び日本企業等の課題が整理されている「日本再興戦略」改訂2014—未来への挑戦—(平成26年6月24日)を改めて読み直すと、労働生産性関連の記述が多いことに驚く。


以下、筆者の気になった部分を引用する(引用部分で注目すべき文言に筆者が下線を引いた)。

第一 総論

  1. 日本再興戦略改訂の基本的な考え方
    (改訂にあたって)
    ・・・日本人や日本企業が本来有している潜在力を覚醒し、日本経済全体としての生産性を 向上させ、「稼ぐ力(=収益力)」を強化していくことが不可欠である・・・・
  2. 改訂戦略における鍵となる施策
    1. 日本の「稼ぐ力」を取り戻す
      (1)企業が変わる
      生産性の向上)
      ・・・日本企業の生産性は欧米企業に比して低く、特にサービス業をはじめとする非製造業 分野の低生産性は深刻で、これが日本経済全体の足を引っ張っている状況にある。・・・
    2. 担い手を生み出す~女性の活躍促進と働き方改革
      人口減少社会への突入を前に、女性や高齢者が働きやすく、また、意欲と能力のある若者が将来に希望が持てるような環境を作ることで、いかにして労働力人口を維持し、また労働生産性を上げていけるかどうかが、日本が成長を持続していけるかどうかの鍵を握っている。
      (1)女性の更なる活躍促進
      ・・・わが国最大の潜在力である「女性の力」を最大限発揮できるようにすること・・・
      (2)働き方改革
      ・・・・多様な正社員制度の普及・拡大やフレックスタイム制度の見直しに加えて、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応える、新たな労働時間制度を創設する・・・・


日本企業は労働生産性が低いようである。
では、向上させるにはどうしたらよいのか。


P・F・ドラッカーによると「測定できないものは管理できない、管理できないものは改善できない」といっている。
これは、以下のように言い換えることができるのではないか。
「労働生産性を改善するには、労働生産の状況を管理しなければならない。労働生産の状況を管理するには、労働生産の状況を測定しなければならない。」


労働生産性を減少させている理由は、企業によって様々だろう。


組織体制の問題であるならば、権限委譲が進まない場合、意思決定が遅くなる。そのために社内調整に時間と労力を費やし、労働生産性が低くなることもあるだろう。


また、人事システムの問題であれば、経営者が望む行動基準と人事評価基準が一致していない場合、社員の行動に「迷い」が生じ労働生産性が低くなることもあるだろう。


もっと視野を広げれば、開発→生産→販売といったビジネスプロセスや情報システム等のビジネスインフラにも労働生産性を低くしている理由があることが十分考えられる。


さらに、昨今では従業員のメンタルヘルスとフィジカルヘルスが労働生産性に大きく影響していることがわかってきた。


ここでは、プレゼンティーイズムに関して紹介する。プレゼンティーイズムとは、病気ではないが体調がすぐれず労働生産性が低下している状況をいう。また、プレゼンティーイズムとは「隠れた人件費コスト」とみなすことができる。この「隠れた人件費コスト」に多くの経営者は、まだ気づいていないが、企業のコストダウンにはきわめて重要である。ある企業では、プレゼンティーイズムの「可視化」により、その労働生産性低下額が営業利業の8%にも達したとのことである。


企業各社の労働生産性向上のためには、まずは、足元の労働生産の状況を、「可視化」することが重要である。上記のように、労働生産性を減少させている理由は様々であることから、その状況把握には多面的な視点が必須である。


自社内での「可視化」が不安と思われるなら、第三者の専門家による「多面的な可視化」も一考ではないかと思われる。


【参考文献】ルイス・V・ガースナー・Jr『巨象も踊る』(2002年、日本経済新聞出版社)

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