労働生産性向上のために社員への健康投資が必要

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  • 佐井 吾光

社員の健康投資は企業価値向上にとって必要不可欠


一国の経済的豊かさの源泉は、自然資源を十分保有しているか否かではなく、その国がいかなる人的資源を育て上げ、いかなる制度を整えたかによると言われている。これは、一企業に置き換えても同様のことが言えるだろう。また、一国の経済の発展段階でその必要とされる「制度」もさまざまで、ときに経済発展を阻害する「制度」もある。一方、企業の組織等の制度も、その発展段階別に新たな制度構築が望まれる。例えば、ラリー・E・グレイナー(Larry E. Greiner)という経営学者は、企業の成長と経営危機の発生との関連から、企業の成長段階には5つの段階があるといっている。企業はその5段階において、異なった危機を迎える(第一段階:統率の危機、第二段階:自主の危機、第三段階:統制の危機、第四段階:形式主義の危機、第五段階:新たな危機)が、そのいずれの段階の危機も、乗り越えるのは社員である。もっと言うならば健康と企業業績をともに向上しうる社員(以下、エクセレント・パーソンという)である。したがって、企業の各成長段階における危機を克服し、次の成長段階にステップ・アップするのに必要なエクセレント・パーソンをどのように育成するかが企業の持続的成長にとって不可欠なテーマである。


【図表1】のイメージ図にあるように、企業として社員への健康投資を講じ、個のパフォーマンスの低下を食い止めなければ、組織の生産性を高めることにはつながらないだろうし、その組織の健全性を確保した後に、企業のパフォーマンス(企業価値)向上が達成しうると思われる。


企業の社員への効果的な健康投資を実施するためには、現在の非生産的状況を正確に把握し、本質的な課題抽出が必要である。そこでPresenteeism(以下、「プレゼンティーイズム」という)の可視化を次に紹介する。

【図表1】企業パフォーマンス ~悪化の真因~

【プレゼンティーイズムの可視化】


プレゼンティーイズムとは、Absenteeismからの造語で、社員は出勤しているが、健康問題などにより労働遂行能力が低下してた状態をいう。このプレゼンティーイズムは、企業の組織全体としてとらえ、職場要因と個人要因の相互作用を考慮に入れることが必要である。また企業にとっては、プレゼンティーイズムの労働損失の程度を金銭単位へと換算し、社員の健康関連コストの増加を抑える対策が必要である。【図表2】は、プレゼンティーイズム可視化の質問票で健康状態の労働生産性への影響測定尺度日本語版Stanford Presenteeism Scaleである。


「測定できないものは、管理できない、管理できないものは、改善できない」と言われている。企業は、社員の労働生産性を高めるうえで、まず、その非生産性の真因を可視化することから始めるべきではないか。

【図表2】プレゼンティーイズム可視化の質問票

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