「健康戦略」という言葉がさけばれて久しい。健康戦略とは、企業が従業員の健康に配慮することによって従業員の士気や生産性を高め、戦略的に実践することである。しかし、実態はどうだろうか。生活習慣病の代表である糖尿病は2007年時点で予備軍を加えて2,210万人を突破(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)し、メンタル不調者も年々増加の一途をたどり、56.7%の企業でメンタルヘルスに問題を抱えている社員が存在する(労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」)という。従業員が健康になることで、生産性が向上し、企業価値が上がればそれは企業にとっても喜ばしいことのはずであるが、従業員は健康とは逆の道をたどっているようにも見える。
企業は従業員の健康が重要であることは認識しているはずであるが、一体何が健康戦略を阻んでいるのだろうか。経済状況の悪化により企業が従業員の健康対策に十分なコストがかけられない等の原因は考えられるが、何よりも企業と従業員の間には、もっと根源的な問題があることが考えられる。
企業は従業員の健康増進のため、健康診断を実施し、さらにウォーキングイベントやメンタル相談室の開設等、様々なメニューを用意することで、従業員の積極的な利用による健康増進を期待している。しかし、1日1万歩歩くのも、ローカロリーの食事をとるのも、すべては従業員のその場の選択に任されており、その選択まで会社が監視できるものではない。その結果、「まあ、まだ大丈夫だろう」「病気になったら健保がある」というモラルハザードが生じている可能性がある。
また、健康増進の施策を会社が用意しさえすれば、従業員は自動的に健康に向かって進んでいくものではなく、今までの生活スタイルを変更することへの精神的・肉体的負担、自分が変わることに抵抗する潜在意識等が新しい行動へ向かうアクションを鈍らせているという事実がある。ましてや、メンタル面に関しては他人に知られることへの不安といった心理的な抵抗が存在している。
その解決策であるが、ひとつには効果的なインセンティブを与えることが重要であろう。例えばウォーキングイベントを実施し、歩数の上位者を表彰等して努力した者としていない者の差を目に見える形で明確に示すことも考えられる。これにはどのようなインセンティブが求められているかアンケート等で調査することも必要である。
「企業は人なり」という松下幸之助の言葉を引用するまでもなく、企業が健全に成長し、社会に貢献していくためには、健全な社員の存在が必須となる。企業と健康保険組合が一体となり、従業員との相互のコミュニケーションを通しての健康戦略の実現に取り組むことで、企業価値と従業員のQOL(Quality Of Life)双方の向上が実現するだろう。
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