健康保険組合の独立性は維持できるか?

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  • 菅原 晴樹

平成20年度に健康保険制度が大きく改正された。新たな高齢者医療制度が創設され、65歳から74歳までの前期高齢者と75歳以上の後期高齢者に区分された。前期高齢者は、従来の国民健康保険等の医療保険各制度に加入し、給付費については各保険者で財政調整が行われる。後期高齢者は、今まで加入していた各医療保険を脱退し、新たに都道府県を単位とした広域連合が運営する医療制度に加入することとなった。これにより、昭和58年に創設された老人保健制度は廃止された。


また、今後医療費の増大が予想される中、その主たる要因である生活習慣病を改善し、医療費の増加を抑制することを目指して、メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導が健康保険組合などの医療保険者に義務付けられた。その対象は、40歳から74歳までのすべての国民である。保健指導の対象者となるかどうかを判断するための健診で、保健指導が必要とされた場合は保健師等により、動議づけ支援、積極的支援が行われる。健康保険組合にとっては新たな事業支出となる。


これらの改正により、健康保険組合の財政は、一層厳しいものになることが予想される。平成20年度健康保険組合連合会全体の予算ベースで、保険医療費:49.7%、前期高齢者納付金(退職者給付拠出金を含む):22.5%、後期高齢者支援金:18.6%、各組合健保独自の保健事業費等:9.2%となり、保険料収入の41%強が高齢者医療制度に対する支援金等で占められることとなった。この割合は、今後一層増加することが予想される。また、約1,500ある健保の保険料率は31‰台(別途積立金取崩し後のケースも含む)から96‰台までかなりのバラツキがあるが、その9割が赤字となり健康保険組合全体で6,322億円の赤字予算となる見込みである。健康保険組合平均で73.08‰と従来の政府管掌健保の82‰よりは低いものの今後保険料率上昇は確実である。


さらに、中小企業等のサラリーマンが加入していた政府管掌健保は、平成20年10月「全国健康保険協会」(協会けんぽ)に移行した。スタート時は政管健保の保険料率と同一であるが、今年10月から都道府県毎に地域の医療費の反映した保険料率が適用されることとなっている。しかし、激変緩和措置により引き上げ・引き下げ率は一律1/10に調整されることとなった。


自営業者、退職者等が加入する国民健康保険は、市区町村単位で運営されている。市町村合併により減少しているとは言え、依然として保険者が約1,800あり、財政基盤は脆弱といわざるを得ない。平成19年度、市区町村国民健康保険の保険者の70%以上が単年度収支で赤字となっている。累積赤字を有する保険者も全体の4割を占める状況である。


制度創設時からつまずいた高齢者医療制度について、昨年9月に発足した厚生労働大臣直属の「高齢者医療制度に関する検討会」は、3月17日「議論の整理」をまとめた。この中で、高齢者医療制度の支援金等の費用負担について、財政力の強い保険者が支援するものとなるよう財政力に応じた応能負担によるべきとの意見が明記されたが、組合健保を初めとして、協会けんぽ及び国保を含めたわが国の医療保険制度の持続可能性を視野に入れた検討を改めて開始すべきではないか。このままでは、健康保険組合の独立性、ひいては存立意義さえも問われかねない状況になる。

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