貴社のグループ統制は企業価値を十分に創出できるものとなっているか

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉田 信之

ここ数年、国内経済の成熟化や企業間競争の激化に伴い、M&A等を活用した企業のグローバル化が進展してきている。急速にM&A等でグローバル化した場合には、海外M&Aの本来の目的として多くの企業が掲げる「企業グループ全体におけるシナジーの創出・享受」はもとより、「海外グループ子会社の実態把握」すらままならない企業も見受けられる。


グループ子会社が国内のみに限定されていた段階では、日本固有の組織風土や企業文化がある程度共有化できるため、親会社からのグループ統制・管理は比較的容易である。しかし、製品・サービス市場のニーズや政治・文化・宗教など、諸条件が日本とは異なる海外のグループ子会社が増えてくると、企業グループ経営の難易度は一気に上がってくる。今後は、海外グループ子会社を含むグループ子会社の情報をいかに収集・集約し、企業価値創造につなげていくか、すなわちグループ統制をいかに図るかが、企業グループの将来を左右するといっても過言ではないであろう。


一口にグループ統制といっても、対象となるグループ子会社がどのような機能を有しているかによって、望ましい統制の在り方は変わってくる。例えば、製造子会社や販売子会社のように、企業グループが営む事業の一部の機能を担っているにすぎないグループ子会社のケースでは、必然的に親会社と子会社の取引関係が強いものになるため、グループ子会社の統制は比較的容易である。


一方、グループ子会社が独立した市場で事業を営み、意思決定の迅速化を図る等の目的で子会社への権限委譲を進め、自立性を高めているようなケースでは、親会社から子会社のコントロールは効きづらくなる。もちろん、グループ子会社を親会社からの厳格な管理で縛るのではなく、敢えて自由に活動させる方がグループ全体からみると望ましい場合もある。すなわち、グループ全体および各子会社の成長ステージに応じた、自社グループに独自かつ最適なグループ統制の在り方を追求することが重要となる。


一般に、グループ統制を構築する際の切り口としては、①「戦略」の視点、②「ヒト」の視点、③「カネ」の視点、④「監査」の視点、等が挙げられる。これらの切り口のうち、どれを特に重視してグループ統制を構築するか(場合によっては、複数の切り口を併用することもありうる)は、それぞれの子会社が持つ機能や親会社が期待する役割等を勘案して決定することになる。例えば、グループ戦略上で重要なグループ子会社は、まず①「戦略」の視点により、戦略の骨子を親会社が定め、グループ子会社が当該戦略骨子に沿って活動することを前提に、適切な目標管理を行っていくことになろう。また、グループ全体から見て重要性の低いグループ子会社については、事後的なチェック方法である④「監査」の視点により、定期的に問題が生じてないかを確認していくという方法で足りるかもしれない。


また、日本的経営の良さを維持したままグローバルに経営を推し進めたいと考える企業等の中には、②「ヒト」の視点を中心としたグループ統制を図っているケースも多い。②「ヒト」の視点によるグループ統制とは、主としてグループ子会社に対して親会社から人を派遣することで親会社からのコントロールを利かせる方法であり、社長を送り込むケース、経営幹部クラスを送り込むケース、マネージャークラスを配置するケースと様々である。経営幹部やマネージャーが財務担当であれば、③「カネ」の視点が重要な切り口となる。


なお、親会社から人を送り込む場合には、この派遣される者が孤立しない様に配慮することが肝要である。グループ子会社の自立性が高い場合には、親会社からの関与を嫌い、当該派遣者に情報を隠すこと等も起こり得る。このような事態を回避するためには、親会社からの要求を一方的に押し付けるのではなく、グループ子会社と互いにWin-Winとなれるような関係を作り、グループ子会社との信頼感を醸成することが重要である。


以上、グループ統制における①~④の切り口を検討する際、どのようなケースが適合するかについては、当該海外グループ子会社の属する国や地域の特徴、企業グループにおける当該グル-プ子会社の位置づけ(重要度)等を総合的に勘案し、決定することとなる。


このように、グループ子会社をどのように統制していくかの最適解は一つではなく、それぞれのグループ子会社ごとに個別に検討していくべきものである。特に、M&A等により規模が急拡大している企業やグローバル化が急速に進んでいる企業は、一度、あるべきグループ統制の在り方について、グループ子会社ごとに整理・検討したうえで、グループ統制に関する基本方針を定めておくと良いであろう。さらに、グループ子会社との関係は、企業グループの戦略転換やグループ子会社が担う役割の変化、子会社が属する国・地域の事情・状況など様々な要素によって変化しうるものであるため、状況に応じて常に見直しをかけていく必要もある。


さて、貴社のグループ統制は企業価値を十分に創出できるものとなっているだろうか。2014年を更なる飛躍の年とすべく、いま一度、貴社のグループ統制の在り方を見直してみるのも一考である。

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