機関投資家に支持される株主還元の考え方

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉川 英徳

2013年度の株主総会シーズンが近づいている。株主総会における議決権行使結果への注目度は年を追って高まっている。その中で、剰余金処分案の議決権行使結果は投資家からの株主還元に対する支持率を示すことになり、注目ポイントの一つである。株主還元とは、企業の視点で見てみると、稼いだキャッシュフロー配分の一部であり、将来の成長に向けた投資や負債返済とのバランスを踏まえた配分方針のもとに決定されるべきものである。一方で、投資家の視点で見てみると、配当などの株主還元は重要な資本回収の手段でありできる限り多くの配分を期待する。投資家は議決権行使を通じて支持または不満のメッセージを伝えている。企業はこうした株主の声を反映することが重要となる。


TOPIX100の配当実績と株主還元政策を集計すると、平均像(中位数)は、連結配当性向で27%、純資産配当率(DOE)で2.4%となっている。有価証券報告書に記載されている配当政策の中身を詳しく見ていくと、図表1に示すように約6割の企業が配当性向について言及しており、うち7割(全体の4割)が数値目標を設定している。安定配当について言及している企業は約6割で、そのうち約4割(全体の約2割)が配当性向の数値目標との併記となっている。自己株取得に言及している企業は約3割であるが、一方で言及してなくとも自社株取得を行っている企業も多い。具体的には約半数にあたる46社が過去3年間に10億円以上の自社株買いを行っている。DOEについては約1割弱(7社)が言及、数値目標を設定しているのはJR西日本(3%)、ダイキン工業(2%)の2社である。


こうした企業の株主還元に対する投資家からの評価を、剰余金処分案に対する賛成率という観点で整理してみる。会社側が株主総会に上程する剰余金処分案に対して、多くの機関投資家は原則として賛成する場合が多い中で、図表2に示すように、配当性向の記述がある場合の賛成率はない場合と比較して高くなっている。また、自己株取得や純資産配当率について言及がある場合、投資家からの満足度は高くなっている。一方、安定配当は、相対的に低い評価となっている。高低の差は1%程度であり、全体からみると僅かな差分であるが、当議案はそもそも反対票が少ない議案であり、その1%に投資家の満足度の差が反映されていると言えよう。


TOPIX100の中で最も高い評価を受けているのが旭硝子である。賛成率は99.96%とほぼ100%の投資家から信任を受けている。同社は「安定的な配当の継続を基本に、連結配当性向30%程度を目安に」配当を行っている。連結純資産配当率の実績も3.7%と高い水準にある。自己株取得についても、配当政策として記述はないものの、継続的に大規模な自己株取得を行っている実績がある。


また、株主還元の枠組みだけでなく、実際の運用時においても投資家の理解を得ることが大切となる。例えば、配当の実施基準として連結配当性向を採用していたとしても、機械的に配当額を計算するのではなく、本業以外での評価損益を踏まえたうえで、配当を行う等の対応が求められよう。例えば、JFEは配当性向の目標を25%としている。同社は12年3月期に投資有価証券評価損等により当期純損失を計上しており、明示している配当政策に従うなら期末配当は無配となるが、同社は年間の経常利益水準を鑑みた配当を実施している。そうした対応から、12年3月期の期末配当は減配であるが、賛成率は99.8%と投資家からの高い支持を得ている。


以上のことを踏まえると、機関投資家に支持される株主還元とは以下の3点を挙げることができる。①自社の事業特性(ROE、成長率など)及び適切な財務構成(自己資本比率など)を踏まえたものであること、②目標水準を示すなど、投資家に対する分かりやすさにも配慮したものであること、③有価証券評価損益など一時的な非キャッシュ損益の発生などの状況に柔軟に対応した運用を行うこと。さらには、これにあわせて、自己株取得により株主還元を行うことも重要だと考えられる。

図表1:TOPIX100の企業の配当政策に関する集計(100社中)
図表1:TOPIX100の企業の配当政策に関する集計(100社中)
(出所)有価証券報告書、臨時報告書等より大和総研作成

図表2:配当政策毎の社数・外国人比率・賛成率(TOPIX100)
図表2:配当政策毎の社数・外国人比率・賛成率(TOPIX100)
(注1)賛成率は会社提案の剰余金処分の賛成率(賛成票数÷(賛成票数+反対票数+棄権票数))
(注2)※剰余金処分案に関する株主提案のあった1社を除く。
(出所)有価証券報告書、臨時報告書等より大和総研作成

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