経済面でも「インド洋の要衝」となる可能性を秘めたスリランカ

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9/6-8、安倍首相はバングラデシュとスリランカを歴訪、8月末のモディ・インド首相訪日に続いて南アジア各国との外交関係強化の姿勢を印象付けた。インド、バングラデシュは高い経済成長率、市場規模の大きさ、低廉な人件費等によって日本企業から注目されているが、もう一つの訪問国スリランカについては、中東からアジアへのシーレーン(海上交通路)の要衝として関係強化の必要性が指摘される一方、経済面での注目度は必ずしも高くない。


スリランカは、2009年まで26年間にわたった内戦の終結後、急速な経済発展を続けているが、GDPに占める製造業の比率が低いため、経済成長に伴って工業製品の輸入が拡大、貿易赤字が拡大する構造である。雇用の受け皿としての重要性も含め、製造業の振興が課題である。スリランカ政府は、最大の輸出品目である繊維産業に加え、輸入代替産業、輸出産業となり得る製造業を重視し、外資も活用した育成を政策に掲げている。


しばしば比較対象となる隣国インドとの対比では、国の規模に決定的な差があり、成長への期待度が小さいことに加え、製造業の振興、外資誘致に向けた政策でも見劣りする。しかし、ジェトロが「スリランカの国内市場には人口だけでは測れない魅力がある」(ジェトロ通商弘報、2014年4月11日)と指摘するように、同国の特色に着目すれば、海外展開先候補としてのヒントを発見することができる。


北海道の約8割の国土面積、人口約2,000万人のスリランカは、近隣のインド、バングラデシュ、あるいは脚光を浴びるミャンマーに比べれば小国にすぎないが、内戦終結以降、政治・経済情勢の安定を背景として国民の消費意欲が高まっており、一人当たりGDPも3,162米ドル(2013年、IMF。以下同様。)まで上昇している。ASEAN加盟国と比較すれば、おおむねフィリピン(2,790米ドル)、インドネシア(3,570米ドル)の中間に位置する。所得水準向上の一端は自動車の急増にもうかがえる。高率の関税等が課されるにもかかわらず、最大都市コロンボを走る乗用車の大半は廉価なインド自動車大手・タタ製ではなく、割高な日本車の中古車である。より高率な新車の関税等を回避するため、日本で新車を購入、短期間使用して車検を通した後、中古車としてスリランカに持ち込むビジネスも現れている。


製造拠点としてみた場合、比較的低廉な人件費よりも、むしろ高い識字率、手先の器用さ、英語教育の浸透等、人材の質に対する評価が高い(「日スリランカ・ビジネスニーズ調査」(ジェトロ、2013年10月))。ロンドン証券取引所の売買システムを開発したMillenniumIT社に代表されるITスキルの高さも強みである。これまで海外に流出していた高等教育を受けた人材が国内に留まれば専門技術職や管理職として起用可能であり、就職口がないためスリーウィラー(二輪車を改造した三輪タクシー)で日銭を稼いでいた若年層はワーカーとしての活用が期待できる。


スリランカをインド市場参入に向けた拠点として位置づけることも可能であろう。特に、インド・スリランカ自由貿易協定の対象品目であればそのメリットは大きい。主要民族、宗教等が異なるため、インド市場のテスト・マーケティング地としては必ずしも機能しないことには留意が必要だが、文化面の親和性は高く、スリランカからインド上陸を目指すという選択肢もあるだろう。

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